このドキュメントは、ASD 部下として日々苦しむ当事者による提言と言えるだろう。
フォーカスはだいぶ絞られており、次の二点である。
その上で、提言をまとめると、次の一言であろう。
認知神経の障害者に健常者レベルの処理能力を求めること自体に無理があるのだから、いいから合理的配慮をしてくれ。
そのために必要な情報として ASD の概要、ASD を取り巻く動向、筆者自身の体験をベースとした会社側の対応の現実などを述べた後、合理的配慮に役立つ原則とパターンを多数紹介している。つまり前提知識と道具を与えているわけだ。特に後者は、筆者の言葉で言えば「概念的な道具」である。
筆者曰く、内容は難しくないとのことだが、それは筆者が知的生産者――新しい言語化や概念をつくりだすことに長けているからだろう。正直言って内容は難しい。ホワイトワーカーはおろか、IT エンジニアでも難しいのではないかとさえ感じる。
それだけに、読者は少なくとも「勉強」のつもりで、それこそ「リスキリング」のように自分を変える――新しい価値観をインストールするつもりで向き合わなければならないだろう。このハードル自体が一種の試金石となっており、ASD 部下をマネジメントしたいなら乗り越えねばならない。
逆に、乗り越えられるのであれば、マネージャーであるあなたの未来は明るい。このドキュメントで挙げられた概念的な道具は幅広く取り揃えられており、マネージャーに就く者であれば、明日から何を試そうかと心が踊るに違いない。
話は変わるが、これを書いている 2025 年 8 月現在では、生成 AI が非常に盛り上がっている。日本国内の普及率はいまいち(*1)だが、このドキュメントの読者層にはすでに馴染み深い存在だと思う。このドキュメントも意識しており、GitHub にて Markdown で書かれた原稿を入手できるため利活用しやすい。ChatGPT へのコピペも可能だし、Cline や Claude Code を始めとするエージェントを使った咀嚼や対話もできる。生成 AI 利用者には嬉しい措置だろう。
潮流と言えばもう一つ、筆者も言及しているが、ニューロ・ダイバーシティ――ASD も含めた発達障害者を「神経の多様性」と呼ぶものも起きている。厚生労働省もイノベーションと絡めたレポート(*2)を出しているし、筆者もまさにその方面での活用を意識したパターンもいくつか整理している。
とにもかくにも配慮である。CoC(Consider or Conflict)原則もあるとおり、配慮できないのあれば、待つものは衝突のみ。しかし、マネージャーの立場からすると、単に「配慮しろ」だけではインセンティブがないのである。まさにそのとおり。だからこそ、ASD ならではの強みを模索しなければならないし、筆者もそこを見据えているに違いない。随所に散らばる筆者の熱く、率直で、容赦のない訴えは、読者の心を揺さぶってくれるし、抉ってくれよう。
Neuro Era(ニューロの時代)も、そう遠くないのかもしれない――。新しい時代をつくるのは、おそらく ASD 部下を抱える皆さんだ。筆者は一貫として ASD 部下を「上手く使え」とのメッセージも強調している。そのための考え方と道具も整備されている。あとは、皆さんが行動するだけだ。
ASD 部下とのトラブルを減らすだけではない。その先の、はるか先の革新に向けた道が、今まさに開かれているのである。ともに歩み出そうではないか。
参考: