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境界盲(Boundary Blindness)に関する整理

出発点

もともとの問題意識は、次のような現象に名前をつけたい、というものだった。

ここで言いたかったのは、単なる「対立回避」や「嫌われたくない」では説明しきれないケースがあるのではないか、ということだった。


最初の候補とズレ

最初は「ネガティブエフォート」という言葉が候補としてあったが、これは本来、

といった意味合いが強い。

一方で今回扱いたいのは、

という現象だった。

そのため、「ネガティブエフォート」は少しズレると整理された。


近い既存概念

英語圏の既存概念としては、次のものが近いと考えられた。

ただし、これらは主に

という説明に寄っている。

つまり、「選択肢はあるが、それを選ばない」という理解が中心であり、
「そもそも選択肢として十分に立ち上がっていない」というニュアンスまでは取りきれないことがある。


boundary blindness という造語

そこで出てきたのが boundary blindness という表現だった。

これは、

といった状態を表すラベルとして有効ではないか、という話になった。

この言葉の強み

この言葉の注意点

そのため、専門用語というよりは、
実践概念・批評概念・分析ラベルとして扱うのがよい、という整理になった。


研究的にはどう見られるか

研究の世界では、「boundary blindness」という一語で定着している概念は見当たらなかった。

ただし、近いものとしては次がある。

これらの研究は、主に次のように説明する。

つまり、研究寄りには

のほうが主流に近い、という整理になった。


ただし blindness 仮説も捨てなくてよい

研究的な主流が incentive / avoidance 側にあるとしても、
実践感覚としては blindness 仮説も十分ありうる という立場が残った。

とくに次のような場合である。

このようなケースでは、単なる「怖くて避けている」だけではなく、
そもそも検討空間の中に後者の選択肢が存在していない
と見たほうがしっくりくることがある。


研究者でなくてもどう扱うか

ここで重要なのは、

という方向だった。

つまり、

という形で示せればよい。

この立場では、boundary blindness は 真理として断定するもの ではなく、 実践上有効な作業仮説 として置くのが適切である。


実践概念としての定義の改善

議論の後半で重要だったのは、
「境界を引いたかどうか」で定義するのではなく、
選択肢として検討できるかどうか で定義しよう、という転換である。

ここで立てられた対比は次の二つだった。

立場A

境界を引かずに、現状維持をする

立場B

現状維持が壊れるリスクを踏まえてでも、境界を引きに行く

この二つの立場があるとして、
境界盲は前者しか選べない状態 と捉える。

ここで重要なのは、後者を必ず選ぶことではない。

問題なのは、
後者を比較可能な選択肢として持てないこと
である。


境界盲のより洗練された定義

この議論を踏まえると、境界盲は次のように定義できる。

境界盲とは、現状維持を壊すリスクを伴う境界設定を、比較可能な選択肢として持てない状態である。

あるいは、少し丁寧に書くなら、

境界盲とは、境界を引かないことで短期的安定を維持する選択肢しか実質的に持てず、現状維持が壊れるリスクを踏まえた上で境界を引くという選択肢を、十分に認知・比較・検討できない状態である。

この定義のよい点は次のとおり。


境界盲を脱した状態

この定義に従うと、境界盲を脱したとは、
実際に境界を引いたこと ではなく、

の両方を、選択肢として比較検討できる状態になったことを指す。

つまり、

境界を引くか引かないかを、コストやリスクも含めて比較可能な選択肢として持てるようになったとき、境界盲を脱したと言える。

この整理により、境界盲は

ではなく、

として捉えられるようになる。


blindness 仮説の実践的意義

blindness 仮説に基づくと、重要なのは「境界を引け」と命じることではない。

重要なのは、まず本人が

ところまで持っていくことである。

つまり、blindness を取り除くとは、

だと整理できる。


現時点での全体結論

現時点での整理を要約すると、次のようになる。

  1. 研究寄りの主流は「blindness」より「incentive / avoidance」に近い
    つまり、境界を引かないほうに短期的インセンティブがある、という説明が一般的である。

  2. しかし実践感覚としては blindness 仮説も有効である
    とくに、そもそも境界を引くという選択肢が立ち上がっていないように見えるケースでは、この仮説は強い説明力を持つ。

  3. boundary blindness は専門用語というより実践概念・批評概念である
    研究用語として確立しているわけではないが、問題の構造を可視化するラベルとしては有効である。

  4. 境界盲は「境界を引かないこと」ではなく「境界を引く選択肢を比較可能に持てないこと」で定義するのがよい
    この定義により、境界を引かない選択そのものを悪としなくて済む。

  5. 境界盲を脱するとは、実際に境界を引くことではなく、後者を選択肢として検討可能になることである
    ここに blindness 仮説の実践的ゴールがある。


要約版

一文定義

境界盲とは、現状維持を壊すリスクを伴う境界設定を、比較可能な選択肢として持てない状態である。

対比

境界盲

境界盲を脱した状態

位置づけ