ホフィス
ホフィス(Hoffice) とはホテル + オフィスを組み合わせた造語であり、ホテルのあり方に取り入れて設計されたオフィスを指す。
具体的なあり方は各自で設計可能だが、必ず使わないといけない制約(ホフィス原則)がある。ホフィス原則にしたがって、各社レイアウトを整備する。
ホフィス原則
- リージョン と ゾーン
- リージョンは地理的な単位を示す。たとえば東京オフィスと京都オフィスがある場合、リージョンは東京と京都で2つある
- ゾーンはリージョン内の単一または複数存在する単位で、一つのオフィスレイアウトを定めた単位となる。より具体的には、後述するルームのタイプと比率とレイアウトを定める
- ルーム
- ルームはホテルでいうシングルルームのような単位であり、個人または4人以下の少人数が滞在して仕事できる程度の空間を指す。あくまでオフィスなのでホテルのようにベッド、バス、トイレなどは存在しない。逆に仕事に必要なデスクと椅子、電源と通信、空調は完備しなければならない
- ルームは論理的な概念であり、必ずしもホテルのように物理的に区切られた個室にする必要はない。しかしプライベートかつパーソナルに仕事できる程度にはクローズドでなくてはならない。オープンオフィス上で実現する場合、ルームの出入り口以外の全方位をパーティションで囲う程度は必要である
- ルームは不正防止のため、透明性を保持しなくてはならない。オープンオフィス上でパーティションで囲うだけなら自然と保持されるだろう。ホテルのような物理的に区切られた個室にする場合、ドアや壁を透明にしなければならない。また施錠の概念もない
- ルームにはタイプがあり、規定されたタイプの使い方のみが許される
- ルームの内部と設備は共通している。つまり規格である。ただタイプに応じた使い分けをするだけである
- フロア
- フロアは独自概念ではなく、オフィスビルにおける一階層分を指す言葉としてすでに定着している
- ホフィスではフロアは単一または複数のゾーンから構成して良いとする。つまり1フロアは複数のゾーンを含んでもよい
ホフィスの思想
まずは従来のあり方を振り返る。近年のオフィスワーカーは ABW(Activity Based Working)が主流である。これは活動に応じてどこで働くかを「オフィス内で」選ぶというものだ。オフィスには個人ブース、会議室、オープンなコミュニケーションエリア、カフェなど複数の機能があり、この中から自由に選ぶ形となる。しかし実情はフリーアドレスにすぎず、個室数や私物保管の削減によるコスト削減と、見通しの良さによる間接的な圧力の意味合いが強い。場所を選ばず、少ない持ち物で、口頭ベースかつ割り込みにも強い「器用な者」にしか合わない、限定的なオフィスとなってしまっている。
特に個人や少人数で深く集中する営みがやりづらく、それゆえイノベーションや変革も生まれづらく、その前段となる心理的安全性その他エンゲージメントの向上も起こりにくい。あるいは機会が限定的になってしまう(たとえば会議室の争奪戦が発生する)。
この問題を根本から解消するオフィス・パラダイムがホフィスであり、ホフィスではルームという「個人または少人数で集中できる場所」を基本単位としている。ルームのタイプとその比率やレイアウトは自由につくれるが、ルームそのものは 4 人以下のコンパクトな単位であるため、この前提で設計することになる。つまりホフィスは少人数以下の単位で駆動させよ、と言っている。また、ルームの規格が単一であることから物理的にも建造しやすい。
ルームのタイプ
必要に応じて新たに定義してもよいが、代表的なタイプを示す。
プロルーム(Pro-room) は、ひとりで使うルームである。空いているときに最初に入った者がチェックインの対象となる。一時的なルームであり、オフィスの消灯までに必ず退出しなければならない。私物を残すこともできない。なおチェックアウトは明示的に行う必要がある。なので部屋を出るだけではチェックアウトはされず、したがって離席が可能である。
コルーム(Co-room) は、複数人で使うルームである。ホフィス原則により上限は 4 人までだ。コルームはミーティングや協調作業を意図しており、部外者の相席は想定しない。飲食店でいうテーブル席1席に相当する。空いているときに最初に入った者がチェックインの対象となる。一時的なルームであり、消灯までに完全退出が必要である。チェックアウトは n 分ごとに自動で行われるため、必要に応じて明示的に延長しなければならない。n の値はゾーンの設定値としてカスタマイズできる。つまりゾーン内では一律となる(空調制御と同じだ)。
拠点ルーム(Base-room) は、消灯までに完全退出せず私物を残しておけるルームである。チームやグループといった組織単位が拠点として使うものである。しかしホフィス原則により、4 人以下の空間であるから、おそらく全員が居座れるだけのキャパシティはない。なお施錠の概念があり、チームの私物を保管できる。たとえば鍵付きロッカーや金庫を導入しても良い。
これら 3 タイプを整理すると、次のようになる:
| ルーム名 |
人数 |
日ごとにクリアする? |
チェックアウト |
| プロルーム |
1 |
yes |
利用者が実施 |
| コルーム |
2~4 |
yes |
n分ごとに強制だが、延長は可能 |
| 拠点ルーム |
N |
No |
- |
この 3 タイプはラフにつくられているが、より細かくつくることもできる。たとえば「1時間ごとに強制チェックアウトされ、1日1回しか使えず、通話も一切禁止のプロルーム」や「同時に2人しか入れない1on1用のコルーム」をつくることもできる。また古典的な組織では役員向けの役員ルームをつくることにはなるだろう。
すべてのルームは全社員もしくはリージョンの勤務者全員が利用可能であるため、あまり特殊なタイプはつくるべきではない。限定的に利用させたいものは拠点ルームの形でつくり、かつゾーンを分けるべきである。これを拠点ゾーンと呼ぶ。役員ルームも拠点ゾーンにつくるべきだろう。
ホフィスをつくるには
ここではゾーン設計に焦点を当てる。
ゾーン設計では以下を定める:
- 1: 使用するルームのタイプ
- 2: 各タイプの比率
- 3: 各ルームとその他共用設備や共用空間のレイアウト
例1: 従来の ABW をベースにした設計例
- 1: 使用するのはプロルームとコルーム
- 2: 比率はプロルームが 7 割、コルームが 3 割
- 3: レイアウトはフロア中央から以下の順に配置する
- エレベーターなど移動動線
- 共用設備や共用空間などのオープンエリア
- コルームの区域
- プロルームの区域
例2: 例1に拠点も追加した設計例
- ゾーン1
- ゾーン2
- フロア
- フロアの西側をゾーン1、フロアの東側をゾーン2とする
- ゾーン1のレイアウトは例1のとおり、中央から賑やかな空間を配置していく
上記概念を欲しがる顧客セグメントを仮説で挙げ、各セグメントの導入動機と懸念を出して。
ホフィスを欲しがる顧客セグメント(仮説)と、導入動機/懸念
1) 知識労働比率が高いプロダクト企業(ソフトウェア、SaaS、AI、ゲーム等)
- 導入動機
- 深い集中(個人・少人数)を標準化し、生産性のボトルネック(会議室不足、割り込み、席探し)を減らしたい
- ABWの「なんとなくオープン」運用で起きる疲労・不公平感を解消したい
- 1on1、設計レビュー、ペア作業など“2〜4人”中心の開発実態に合う
- 懸念
- ルーム運用(チェックイン/アウト、予約なし運用)の定着に失敗すると形骸化する
- “透明性(ガラス等)+施錠なし”が、心理的安全性や情報管理と矛盾するのではという不安
- 部署間の「拠点ルーム」争い(既得権化)や、ゾーン分離によるサイロ化
2) 研究開発・企画職が強い企業(製造業R&D、医薬、素材、先端研究)
- 導入動機
- 実験以外の時間は個人集中や少人数議論が中心で、ルーム単位が合う
- 長期テーマを扱うチームに「拠点(Base-room)」が刺さる(資料・試作品・思考の継続性)
- 静けさ・没入の設計を、フロア全体の“思想”として担保したい
- 懸念
- 機密・知財の観点で「透明」「施錠なし(プロ/コ)」が厳しいケース(覗き見、盗撮、会話漏れ)
- 試作品やサンプル保管など、4人以下ルーム規格に収まらない要求が出る
- 拠点ルームに物が溜まり、ホテル思想(クリアされる前提)と衝突する
3) コンサル・デザイン・広告・制作など「納品型のプロジェクト」企業
- 導入動機
- 案件ごとに2〜4人の“臨時チーム”が高速に立ち上がるためコルームが運用に合う
- クライアントワークで、会議室争奪やオープンスペースの騒音が致命傷になりやすい
- 「拠点ルーム=案件ルーム」として短期的に割り当てたいニーズ
- 懸念
- クライアント同席を想定すると、透明性要件が“見栄え/機密/緊張感”で嫌われる可能性
- ルームが“占有”されやすく、回転率管理(チェックアウト運用)が難しい
- 来客導線(受付〜ルーム)とゾーン設計を誤ると、ホテル感より“迷路感”が出る
4) ハイブリッドワークが定着した中堅〜大企業(出社率が読めない)
- 導入動機
- 出社が疎な人でも「来たら確実に集中できる」価値を提供し、出社の意味を作れる
- 固定席を減らしつつ、ABWよりも“居場所の品質”を上げたい
- ルーム規格を統一することで、増床・縮小・移転時の設計をテンプレ化しやすい
- 懸念
- 既存の固定席文化・上座文化との衝突(役職者の個室要求、部門の縄張り)
- 人数規模が大きいほど「公平な割当」「混雑時の不満」が顕在化(ルーム不足=炎上)
- 防災・安全衛生・ビル規約(ガラス、パーティション、避難導線)との整合
5) 採用競争が激しい企業(エンジニア採用、若手獲得を重視)
- 導入動機
- 「集中できる」「小さく話せる」が福利厚生的に強い訴求になる(オフィス体験が差別化)
- 在宅では得にくい“共同作業の質”を出社で提供できる
- 入社直後のオンボーディングを、少人数ルーム中心に設計しやすい
- 懸念
- 見た目が地味だと「オシャレオフィス」文脈で弱い(カフェ/ラウンジ重視の層に刺さらない)
- 透明性設計が「監視っぽい」と受け取られるリスク(逆ブランディング)
- ルーム不足時の体験劣化が採用評判に直撃する
6) セキュリティ・コンプライアンスが厳しい業界(金融、法務、行政、防衛系等)
- 導入動機
- “誰がどの部屋を使っているか”をチェックイン概念と結びつけ、統制を強めたい
- オープンフロアでの会話漏れを減らし、区画化された空間を増やしたい
- 懸念(特に大きい)
- 透明性要件と守秘の相性が悪い(外部から見える=のぞき見・盗撮リスク)
- 施錠なし運用が難しい(端末放置、書類、来客対応)
- ログや監査要求が強くなり、運用が重くなる(“ホテル的気軽さ”が損なわれる)
7) コスト最適化・不動産効率化が主目的の企業(総務主導)
- 導入動機
- ルーム規格が一定なら工事・什器の標準化が効き、拠点展開もしやすい
- 会議室偏重をやめ、2〜4人単位に寄せることで面積効率を上げられる可能性
- 懸念
- 初期投資(パーティション、ガラス、空調/電源/ネット整備)がABWより高くなる恐れ
- “運用できないと回らない”ため、単純な席数計算で設計すると失敗しやすい
- 目に見える削減(席数削減)に直結しない場合、社内稟議が通りにくい
8) 教育・研修・ブートキャンプ型組織(社内大学、研修センター、専門学校等)
- 導入動機
- 1人集中(プロルーム)→少人数議論(コルーム)への遷移が学習設計に合う
- 講義室(大部屋)偏重よりも“演習中心”に寄せられる
- 懸念
- 複数人同時の講義・発表など「大部屋」需要が必ず残り、ルーム中心思想とズレる
- 受講者の入替が多く、チェックイン/アウト運用が煩雑になりやすい
共通して出やすい導入懸念(横断)
- 供給不足問題:ルーム数が足りないと一気に不満が噴出(“予約地獄”“難民”化)
- 運用設計の重さ:チェックイン/アウト、強制退出、延長ルール、清掃、忘れ物等の設計が必須
- 透明性と心理/機密のトレードオフ:ガラス化が「安心」になる場合と「監視/漏洩」になる場合がある
- 拠点ルームの既得権化:チームの私物・占有が増えるほど、共有資産としての魅力が落ちる
- 音・匂い・導線:2〜4人が増えるほど“話し声”の総量が増え、ゾーニングを誤ると破綻する
必要なら、想定する「会社規模」「出社率」「主業務(開発/営業/管理など)」「機密レベル」をもとに、どのセグメントが最有力かを優先順位付きで絞り込み、各セグメント向けの“刺さる言い方(提案メッセージ)”まで落とします。