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クリエイティブ・シンキング入門

サマリー

背景

革新が求められる時代

現代は VUCA と呼ばれ、正解がないのに変化が激しい時代です。また DEIB ともいわれるように私達自身の要求水準も上がっています。開発者についても DevEx や DevRel といった尊重、配慮、顧客化のアプローチが重要視され始めています。

このような時代を生き抜くには革新が必要です。

別に社会そのものを変える必要はありませんが、少なくとも私達とその周辺は変えていかなければならない。それを持続的に行えるだけの力と仕組みがほしい。これは目の前の技術的問題を解決すればいいという「硬い仕事」ではありません。むしろ、硬い仕事を発見するまでの探索であり、全く違った戦略が必要です。

Open-Ended Situation と創造性

このように正解がなく、方向性も見えない状況を Open-Ended Situation(OES) と呼ばせてください。その名のとおり、どこまでも開かれていて、ゴールと呼べる建物や地点がない。むしろ何がゴールなのかを自ら決めねばなりません。

そういうわけで、OES には本質的に創造性が必要なのです。

クリエイティブ・シンキングを履き違えている人達

創造性に再現性をもたせるべく、クリエイティブ・シンキングと呼ばれるジャンルがすでにあるようですが、既存のそれらは履き違えているように思います。

たとえば次のような説明をします。

違います。全然違います。創造とは探索です。実際に計画を立てたり作業に入ったりする の営みであり、具体的な成果物は何一つありません。あるのは言語で表現されたテキストだけです。生成 AI でたとえるなら、プロンプトをつくるところまでです。

創造には深いダイブと高く遠い飛躍が必要であり、計画も管理も作業もあらゆる「仕事に関する営み」が邪魔になります。すべてを排除して、真に思考と言語化に集中できなくてはならないのです。クリエイティブ・シンキングはそのために設計されねばならない。

ですので、私は立ち上がりました。クリエイティブ・シンキングとは何たるかをお教えします。

クリエイティブ・シンキング

概要

クリエイティブ・シンキング とは、革新との出会いを最大化するためのメソッドです。

目的は Open-Ended Situation の打破であり、実際に何らかの仕事をする前段階の営みに相当します。

クリエイティブ・シンキングの本質は探索であり、「見えてきた」と思えるまで、ひたすら思考と言語化を行います。あらゆる制約を無視して、真にテーマのことだけ考えて、何ならテーマから逸れて寄り道もして、そうして探索して探索して探索します。その果てに「これだ!」という何かが見つかります。見つかるまで粘れるかどうかがすべてです。

そのためには「創造」の名前のとおり、深いダイブと高くて遠い飛躍が必要になります。これを邪魔するすべてを排除しなくてはなりません。計画もしませんし、管理もしませんし、タスクも課しません。チームワークやコミュニケーションといった免罪符を使って自らの粘り弱さや寂しさを誤魔化すこともしません。

クリエイターの営みに再現性を持たせる

今のところ、クリエイティブ・シンキングを身に付けているのは一部のクリエイターだけです。

エンジニア、マネージャー、経営者はおそらく 99% は当てはまりません。なぜならこの人達は単に上位からの命令や周囲の傾向を見て、從っているだけだからです。それは創造ではなく、ただの作業にすぎません。行動力とパフォーマンスと解釈の仕方に違いがあるだけです。ただのハイパフォーマーや賢い人にすぎない。クリエイターではない。

クリエイターというと、私は日本のマンガや小説、あるいはイラストレーションを思い浮かべます。日本は最先端であり、1日12時間以上の創作を何年も続けるような怪物がたくさんいます。そんな侍の国で生まれ育った私だからこそ、探索を天才の営みから再現性のあるメソッドにしたいと考えました。

クリエイティブ・シンキングの 3 要素

クリエイティブ・シンキングの考え方とやり方を示すために、3 つの要素で整理してみました。

1: スプレディケーション

コミュニケーションでもなく、ドキュメンテーションでもなく、スプレディケーション(Spreadication) です。スプレディケーションとは発散、収束、蒸留から成るアイデア整理の営みを指します。

比較してみましょう。

コミュニケーションは 1 対 1 でやりとりします:

A <---> B

N 対 M もありえますが、コンピュータのマルチタスクが実際にはシングルタスクの高速な切り替えであるように、コミュニケーションも最小単位は 1 対 1 です。単にこの単位が複雑に変化し、積み重なるだけです。

次にドキュメンテーションはドキュメントをつくって、それを介してやりとりします:

           C
           |
           v
A ---> Document <--- B

リアルタイムな聞く・話すではなく、書いておく・読んでおくといった遅延的なやりとりが可能になります。また複雑な情報も伝えきることができます。

最後にスプレディケーションはワークスペースをつくって、そこで各自探索します:

                         c
                         |
        +----------------|---+
     A----->             |   |
        |                v   |
        |     Workspace      |
        |                    |
        |                 <------B
        +--------------------+

ワークスペースの中には大量のアイデアその他情報があります。各自は好き勝手に膨らませていきますし、他の人のも積極的に利用します。

2: ソロワーク

ソロワーク とはチームワークの対義語であり、ひとりで活動することです。

ソロワークの最中は、以下をしません:

他人とコミュニケーションを行わず、計画も締切もなく、働き方も自分の好きにできます。そのかわり ソロワークは孤独です。またサボっていては意味がないので、探索は進めなくてはなりません。正解がなく、終わりも見えず、誰も指針を示してくれない Open-Ended Situation を、ひとりで探索し続けなければならない。

例外はありますが、

これだけです。本質的には孤独です。ソロと名付けているのもそのためです。

なぜソロになるかというと、一切の邪魔がなくなるからです。邪魔をゼロにして、自分ひとりで深く入り込むことだけが創造に至る唯一の道です。孤独から逃げることはできないのです。

3: シールド・アンド・パージ

シールド・アンド・パージ とは、ソロワークを守ること(シールド)と、ソロワークを阻むものを排除すること(パージ)を指します。

容易に想像できるとおり、ソロワークを維持しながらスプレディケーションを続けることはかんたんではありません。厳格なセキュリティやガバナンスと聞いて思い浮かべる水準くらいに、徹底的に心がけねばなりません。

CPPF という言葉があります。子供、パートナー、ペット、友達の略で、クリエイターならこれらを徹底排除せよとするものです。これが正しいかは人次第かつ状況次第ですが、クリエイターはこれくらいしてもおかしくはないのです。クリエイティブ・シンキングでも、この本質から逃げてはいけません。むしろ持続させるためにシールドとパージの両方を掲げます。

おわりに

クリエイティブ・シンキングの考え方と三つの本質についてご紹介しました。

Open-Ended Situation に対抗するためには、クリエイターが行っているストイックな営みを私達もやらねばならないのです。これは決して天才の営みではなく、再現性を持たせられるメソッドです。私はそう信じていますし、そのためにソフトスキル・エンジニア として 方法と概念を開発しています。

エンジニアの皆さんも、いや、エンジニアの皆さんだからこそ、ぜひ実践してみてください!