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フルマスク

概要

フルマスク(Full Mask) とは、本名・容姿・性別を開示しない働き方を指します。自分の素の本名・容姿・性別を プレーン・アイデンティティ(Plain Identity) と呼ぶことにすると、フルマスクとはプレーン・アイデンティティを開示しない働き方と言えます。

プレーン・アイデンティティの開示は想定されません。また強要してもいけませんし、それはハラスメントとみなされます。代わりに普段はダミーのアイデンティティを使います。別の言い方をすると、プレーン・アイデンティティは健康状態や住所、また国によっては国籍や政治信条に相当するほどのセンシティブな情報だと考えてください。

ダミーのアイデンティティは複数つくったり使い分けたりできます。たとえば同じアイデンティティ A を、常に同じ人が使うとは限りません。あるときは🐶さんが A を被り、別のときは🐱さんが被っていることがあります。そういう意味では、アイデンティティは 仮面(Mask) です。仮面を自由につくったり被ったりできるのです。

メリット

フルマスクのメリットは次のとおりです。

デメリット

フルマスクのデメリットは、従業員間で深い関係を築きづらいことです。

あなたが自身の病歴、住所、あるいは政治信条を伝える場合は、どのようなときでしょうか。どんな従業員であれば伝えられるでしょうか。よほど信頼できる相手か、親密な相手に限られると思います。それこそ友達やパートナーといった間柄になるでしょう。フルマスクも同様で、プレーン・アイデンティティを伝える相手も、そういう相手に限られます。

もちろん、フルマスク環境下では、常に仮面を被っていますから、ただでさえそのような間柄になるのは困難です。インターネット上で完結するコミュニティやマッチングサイトにおいて、リアルで会う仲になるようなものです。

そう、インターネットは良いたとえです。仕事上の関係は、素顔も本名も晒すことなく、オンラインで完結します。その先に踏み込むのは例外的であり、踏み込むことを前提にはできないのです。

実装

フルマスクを実現するためには、何を用意していけばいいでしょうか。以下に挙げます。

1: Full Three

Full Three とはフルリモートフルフレックスフルアシンクを指します。いずれも完全に実現させる必要はありませんが、少なくとも全社的に相当なところまでは定着させねばなりません。

たとえば以下の すべて全社的に、かつ当たり前のように満たせるかどうかを考えてください。

この程度ができていない場合、フルマスクは時期尚早です。なぜならフルマスクはプレーン・アイデンティティを晒さないあり方であり、出社や会議や同期コミュニケーションといった「原始的な働き方」との相性は最悪だからです。

2: Account Management

フルマスクでは全面的に仮面を被ります。つまりダミーのアイデンティティを使うことになります。これはプレーン・アイデンティティを晒さないアカウントを使い分けることを意味します。普段、皆さんも、特にプライベートでは SNS などで別人格・別名義のアカウントをつくっているかと思いますが、そのイメージで合っています。

概念的には、以下が必要です。

これは絶対的な正解ではなく、私がつくった参考です。しかし、フルマスクを実現するためには、この四つのレイヤーは必要だと思います。

これを全社員が扱えるような仕組みとシステムを実装してください。

3: Mask Platform

仮面基盤(Mask Platform) とは、仮面を誰でも自由につくったり共有したり着脱したりするためのプラットフォームです。社内向けの社内プラットフォームと考えてください。前述の 2: とも重複しており、仮面の部分のシステムに相当します。

Slack や Teams などビジネスチャットではチームごとに部屋が分かれますが、仮面も同じです。所属が違えば、どんな仮面を使っているかも変わります。この融通を実現できるだけのプラットフォームが必要です。

4: ボイスチェンジャー

プレーン・アイデンティティに肉声は含まれませんが、肉声から特定に繋がることがよくあります(特に性別)。1: にも書いたとおり、そもそも発話の機会が無いか、少ないはずですが、それでもゼロにはできませんし、必要なときはやります。

ですので、発声を変化させるボイスチェンジャーも事実上必須です。それも任意利用ではなく 強制 です。典型的には、仮面基盤とセットで実装して、仮面ごとにボイスを付与するといいでしょう。つまり、ある仮面 A を被った人の声は、A に搭載されたボイスチェンジャー越しになります。

おわりに

フルマスクとは本名・容姿・性別を開示しないことです。代わりに仮面を被ります。

コンセプトはシンプルですし、現時点でも実現は可能ですが、それでも実際に実装するとなるとそれなりのコストがかかります。