皆さん、振り返りはしていますか。アジャイルなチームであれば、定期的にやっていると思います。
では 個人では どうですか?
自分をよく知るのも自分なので、自分の振り返りは自分自身で行うのが良いです。すでにアジャイルの形で振り返りの重要性は理解しているはずです。個人レベルでも、やらない理由はありません。
ここで問題が一つあります。
自分の、自分による、自分のための振り返りはどうやって行えばいいのでしょうか?
アジャイルのフレームワークに則って行うのは大げさすぎます。GTD®のようなオープンではないフレームワークも使いづらいです。自分で新しく模索するのはもっと面倒くさいでしょう。
私はナレッジ・アーキテクトとして多くの人を見てきましたが、人は怠け者であり、あまり難しいことはしまsねん。個人レベルならなおさらです。できないのではなく、しない のです。本質的にシンプルで、かつ持続的なやり方を考案せねばなりません。
そもそも振り返りについて知らない方のために、軽く解説しておきます。
※日本では国民の誰もが知るくらいメジャーな概念ですが、他国ではそうとも限りません。エンジニアならアジャイルの形で触れているはずですが、ライフワークとして染み付いているわけではないでしょう。というわけで解説をしておきます。
毎日記録を取り、定期的に(不定期でも良い)それを見て洞察を得ることです。
要件は以下の二点です。
たとえば Slack で「ひとりでつぶやく用のチャンネル」をつくって、X のようにあれこれポストします。これを、たとえば毎週日曜日に読み返します。読み返した上で何を得るかは自由です。やり残したタスクを捉えてもいいですし、今週手を付けたいアクションやアイデアを宝探し感覚で漁ってもいいですし、今週やることと捨てること一つずつ選んでも良いのです。
自由と言えば、記録の書き方も自由です。日記やブログのように雑にやってもいいですし、仕事のように厳格なフォーマットに基づいても良い。
振り返りのメリットは、記録をベースとした「明示的に考える機会」を得ることです。
私達人間は怠け者ですし、恒常的に忙しいので、立ち止まって考えることをしません。また記憶も信用できないので、立ち止まったとしてもあまり有意義な思考はできません。これを防ぐ唯一の方法は、ちゃんと書いて、ちゃんと読み返すことです。
以下の三点を心がけると良いでしょう。
つまり プレーンテキストベースで、理解も運用も用意で、日々楽しく書き込めるようなフォーマットが望まれます。
これより雑だと振り返りが成立しません。また、これより煩雑だと形骸化するので、やはり成立しません。エンジニアの皆さんにとっては、これくらいが最適な塩梅だと考えてください。
※ちなみに、この塩梅でもできない人はいます。振り返りに向いてない性格や特性はあります。その場合は申し訳ないですが諦めてください。あるいは、生成 AI からリマインドしてもらうような仕組みを自分でつくりましょう……。
本題に入りましょう。個人で振り返りを行うためのフォーマットを三つ紹介します。
KPT は Keep、Problem、Try の略です。
Keep として「良かったこと」や「続けたいこと」を挙げます。ポジティブです。Problem では「悪かったこと」や「やめたいのに続いていること」を挙げます。ネガティブです。Try は、Keep や Problem を受けて「次に試したいこと」を挙げます。アクションです。
元々はチームで、付箋で行うものでした。以下のようなシートをつくって、各自が付箋を張っていくわけです。Miro のようなデジタルホワイトボードでもできますし、もちろんアナログでも可能です。
+---------+---------+
| | |
| Keep | |
| | |
|---------| Try |
| | |
| Problem | |
| | |
+---------+---------+
今回は個人の振り返りですので、これを一人でやります。もちろんプレーンテキストベースでもあるので付箋は要りません。以下で十分です。
# 2025/11/25
## K
- Keep-1
- Keep-2
- ...
## P
- Problem-1
- Problem-2
- ...
## T
- Try-1
- Try-2
- ...
KPT ですが、正直言って使いにくいです。具体的には以下二点。
使いづらい KPT の代わりに開発されたのが YWT です。YWT は以下の略です。
| アルファベット | 日本語 | 英語 |
|---|---|---|
| Y | Yatta(やった) | Did |
| W | Wakatta(わかった) | Learned |
| T | Tsugi-ni-yaru(次にやる) | Next |
※この略語は日本語からつくっています。英語で名付ける DLN となるでしょう。本記事では YWT で統一します。
Y(やった/Did)には、「やったこと」を書きます。この Y に、W(わかった/Learned)として「わかったこと」をぶら下げます。つまり、1 つの「やった」に対して n の「わかった」がぶら下がります。
「やった」と「わかった」を書いていくと、次にやることも自ずと見えてきます。それを T(次にやる/Next)として書きます。
フォーマットを示すと、たとえば次のとおりです。
# 2025/11/25
## YW
- Did-1
- Learned-1-1
- Learned-1-2
- ...
- Did-2
- Learned-2-1
- ...
- Did-3
- ...
## T
- Next-1
- Next-2
- ...
Markdown でなくてもいいですが、「やった」に「わかった」をぶら下げた方が書きやすく、読みやすいので、少なくとも箇条書きは使った方が良いです。
さて、YWT のメリットですが、「やったこと」から書くゆえに 圧倒的に書きやすい ことです。やったことを雑に書いていくだけで、わかったことや次やることも思い浮かんできます。
YWT は強力です。個人の振り返りは YWT で十分です。しかし、いささか退屈でつまらないフォーマットでもあります。飽きます。そこで、もう少し飽きにくいフォーマットがあると便利でしょう。
飽きやすい YWT に替わるフォーマットを開発しました。4Y です。4Y はは以下の略です。
| 日本語 | 英語 |
|---|---|
| Yaru(やる) | Will do |
| Yatta(やった) | Did |
| Yokatta(よかった) | Good |
| Yokunakatta(よくなかった) | Not good |
※この略語は日本語からつくっています。英語で名付ける WDGN となるでしょう。本記事では 4Y で統一します。
「やる」には、やることを書きます。TODO でもタスクでもアイデアでも、Must でも Want でも Should でも何でも構いません。ラフな TODO リストと考えればいいでしょう。「やった」には、やったことを書きます。この二つにより、未来の行動と過去の行動の両方が書かれます。この二つは X のポストや息抜きのチャットのように、こまめに書きます。もちろん後でまとめて書いても良い。
「やる」と「やった」が貯まったら、残る二つも書けます。「よかった」には、良かったことを書きます。ポジティブなことを書きます。「よくなかった」には、良くなかったことを書きます。ネガティブなことを書きます。「悪かった」ではなく「よくなかった」であることに注意してください。「否定」と「肯定ではない」は違うのです。前者は強い言葉なので気が滅入りますが、後者は比較的柔らかい言葉です。
フォーマットを示します。この例では Markdown ですが、別に何でも構いません。Markdown も意外と面倒くさいですし、エディタ上で読み書きするだけならもっと雑なフォーマットでも良いです。
# 2025/11/25
## やる
- 直近やること
- 直近やること
- ...
## やった
- 今日やったこと
- 今日やったこと
- ...
## よかった
- 今日の良かったこと
- 今日の良かったこと
- ...
## よくなかった
- 今日の良くなかったこと
- 今日の良くなかったこと
- ...
さて、4Y のメリットですが、YWT と同様、やったことから書き始めるので 書きやすい ことです。そしてその後、良かったことと良くなかったことを自ら考えて書かないといけないため、退屈しません。何が良いか、あるいは良くなかったかの正解はないため、あなた自身が考える他はないのです。無論、「やった」と「やる」を書いていないと、中々上手く思いつきません。
YWT よりも難しいですが、慣れたら、飽きることなく毎日続けられます。やめどきがあるとすれば、良かったことや良くなかったの言語化が面倒くさくなったとき、あるいは必要なくなったときです。その場合は YWT に戻るといいでしょう。
自分に関する振り返りを自分でやるという「個人の振り返り」に焦点を当て、フォーマットとして三種類紹介しました。
振り返りの力は普段仕事で散々痛感しているでしょう。個人で行うのは何とも面倒くさそうですが、フォーマットをシンプルにして、プレーンテキストベースでラフにやるなら十分可能です。個人レベルでも振り返りの力に頼れます。また、振り返りは純粋に楽しい営みでもあります。ぜひ使ってみてください。
それではまた。