内製 とは、ソフトウェアや概念を自組織でつくることです。
内製により他組織に依頼せず、自組織で完結できるのでコミュニケーションコストを抑えられます。もちろん自社のドメイン知識も反映しやすいです。ドメイン駆動開発などという困難も少なくて済みます。仮に開発者が自社にいなかったとしても、他組織に任せるよりは、自組織で育成した方が安上がりだったりします。
次に 内省 とは、自身について一人で振り返りを行うことです。
内省により自分の現状や信念を無視することもなく、また殺すこともなく、純粋に向き合えるようになります。実際にどこまで尊重できるかは現実の制約とあなたの力量次第ですが、それでも全く内省しないよりははるかにマシです。内省しない人の末路は悲惨です。特定個人か、組織か、あるいは資本主義の奴隷になるだけです。稼げるかもしれませんが、エンジニアとしての体験は削がれます。そのような現状を「仕事だから」「そういう立場だから」などといって正当化します。
エンジニアとして、またエンジニアリング組織としても、両方手に入れたいものです。
内製ができないとコミュニケーションコストに忙殺されます。私達の本懐はコミュニケーションではなくエンジニアリングのはずです。
内製ができないと自分を保てずに奴隷化します。エンジニアは創造的なはずですが、ただの「作業員」あるいは「忙しいビジネスマン」に成り下がってしまいます。
これらを回避したいのなら、内製と内省を手に入れる必要があります。
現状を振り返る意味でも、国ごとに整理しましょう。結論を言うと、日本は内製が苦手です。欧米は内省が苦手です。
内製は欧米では当たり前の価値観でしょう。ユーザー企業にエンジニアが属しており、自社に関する開発を任せられます。
一方、日本では ユーザー企業にエンジニアがいません。代わりに、SIer という専門組織に依頼します。もちろん費用は高額になりますし、コミュニケーションコストも甚大ですし、自社のドメインに合った製品なんてつくれるはずもありません。どころか中抜きなどという悪しき文化もはびこっており、下請けが n 重に重なっていてマージンを引いていきます。日本がその勤勉性にもかかわらず、IT 後進国なのも、間違いなくここに原因があります。
現在、日本では内製を手に入れる機運が盛り上がっています。特に DX やローコード、ノーコードの文脈に絡めて議論されます。自社をデジタル前提に変革するためには、自社のドメインをよく知る人物自身が開発できなければならない。しかし一からエンジニアを育成するのは大変だ。そこで比較的習得しやすいローコードやノーコード、もちろん最近では生成 AI が使えるぞ、という言説です。
一方、欧米は内省が苦手です。たとえば毎日仕事の日記を書いたり、週末に半日以上の孤独な時間を確保して自由な思索と活動を楽しんだりといったことはしないでしょう。
というより、できないのです。文化的に孤独に慣れていない せいで、そういう発想すら抱けません。強いて言えば内向的なナードなら可能でしょうが、現代では少数派です。エンジニア全体の数 % 未満でしょう。
幸いにも孤独の価値、もっと言うと内省の価値は先人が残しています。私達エンジニアの界隈にもいくつか持ち込まれています。いわゆるマインドフルネスや瞑想はまさにそうです。禅の概念を見かけたことのある人も多いでしょう。Google など一部の大企業が率先したこともあって、今ではソフトスキルの一部に含めていいくらいに広まりましたが、正直言ってまだまだです。真に孤独な時間を 恒常的に 確保できない限り、内省ができているとは言えないのです。
内製にせよ、内省にせよ、取り入れるためには投資が必要です。内製の場合は IT 人材を育成または雇用するための予算が必要ですし、内省の場合は全従業員に孤独な時間を取ってもらうための教育と啓蒙が必要です。
いずれにしても個人の力やボトムアップの思索でどうにかできるものではなく、トップダウンで一気に推進しなければスタートラインにも立てません。ということは、それだけの力を持つ経営陣がやるかどうか次第なのです。もっと言えば、経営陣が内製や内省の価値を知っていなくてはなりません。
ナレジャー とはエンジニアとマネージャーに代わる、第三の役割であり、ナレッジをつくったり広めたりする責務を持ちます。
この「内製と内省」という言い方も、まさに私がナレジャーとして言語化したものです。ナレジャーであれはこの程度は造作もないことです。また、エンジニアやマネージャーに変わって、これらの概念を教育・啓蒙することもできます。人を扱うマネージャーにも、ソフトウェアを扱うエンジニアもできないことですし、もちろん会社を扱う経営者にもできないことです。ナレッジを扱うナレジャーだからこそできることです。
私はこれを ナレッジの自製 と呼んでいます。ナレッジがわかりづらければ概念でも構いません。概念の自製です。自社にナレジャーがいると、このように概念をつくったり広めたりといったことが行えるようになります。
内省と内製について整理しました。いずれにせよ経営者による投資が必要不可欠であり、経営者含め、このような概念をつくったり広めたりする役割が必要です。ナレジャーなら可能です。