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非同期ワークのための RAP フレームワーク

サマリー

背景

非同期ワークは難しい

非同期ワーク(Async Work) は難しいです。なぜなら私達にとって、仕事の大半はコミュニケーションであり、コミュニケーションの大半は密な会話だからです。密に会話を行うことによって、お互いにリアルタイムにすり合わせていきます。

この リアルタイムの呪い つまり同期的なあり方に抗えるのは人間だけです。人類は技術と方法を発展させて、非同期ワークを確立しました。しかし、現状でもまだまだフル活用はされていません。GAFAM や MATANA のような企業でさえも出社回帰してしまうくらいには、この呪いは手強いのです。

そもそも同期ワークはなぜダメなのか

単純な話、同期的な働き方は負担が高いからです。極端な話、王政のもとで奴隷のごとく一箇所に集めてこき使えば生産性は出ますが、そんなことは当たり前ですし許してはいけません。残念なことに、現在も資本主義の名のもとに平然と搾取が続いています。それを報酬とやりがいで誤魔化します。日本には「やりがい搾取」という言葉もあるほどです。

しかし生物には同期的に連携する機能しか備わっていない。だからこそ非同期ワーク――そのための手段と考え方を意識的に、厳しく使っていかなければならないわけです。

非同期ワークの肝はフレームワーク

非同期ワークを持続的にこなすのは難しいですが、端的なコツがあります。フレームワークを使うことです。

テンプレートと言い換えてもいいでしょう。「これとこれを埋めればいい」「ここまでやれば良い」といった 基準を設ける ということです。これにより、各自は自分のペースで基準を満たせばいいことになります。密な会話のように、その場で頑張ってすり合わせなくてもいいわけです。基準を満たしたものを渡して、見てもらって、また埋めてもらって、を繰り返せば良くなります。

だからといって、あらゆる場面ごとにフレームワークを個別につくっていてはきりがないです。ですので汎用的なフレームワークに頼ります。これは難題ですが、私はソフトスキル・エンジニア として一つ整備しました。次で紹介します。

RAP フレームワーク

RAP フレームワーク は、非同期ワークをやりやすくするためのフレームワークです。

まずコミュニケーションを以下のように捉えます。

RAP とはラリーを返す際に使うフレームワークで、以下の三つの略です。

つまり RAP ではコンテンツそのものに関するコメント(指摘)、コンテンツには見当たらないが追加するべき内容(不足)、コンテンツに含まれているが省いていいもの(過剰)の三点を扱います。

例1: コードやドキュメントをレビューするとき

RAP のうち、R については従来どおり、コメントしたい場所を指定した上でコメントを書きます。GitHub なら行単位で指定できますし、Box なら矩形で範囲選択してコメントを残せます(アノテーション機能)。また直接指定できないなら、該当部分をコピペした上で引用して書きます。

A については、R とは別の枠をつくって、箇条書きなどで書けば良いです。枠がないなら別途送信しなければなりません。できるだけ R のコメントを書く場所から離れない方がいいです。バックログなどで別途管理するのは構いませんが、このコンテンツに対してこれこれの Add を出したという事実は必ず追えるようにしてください。

P については、R と同じ形で指定します。ただし Prune であることを示す視覚的な強調があった方がいいです。私は絵文字をおすすめします。たとえばハサミの絵文字 ✂ ✄ を採用して、「この絵文字がついているコメントは Reply ではなく Prune を示す」とすれば良いです。

例2: Slack 上で行うようなやりとり

たとえば次のようなフォーマットを使って返事をします。

## Reply
> 発言の一部を引用
これに対するコメントを書く

> 発言の一部を引用
これに対するコメントを書く

...

## Add
発言に含まれていないが、追加するべき話を書く。あるいは追加の質問を書く

## Prune
Reply と同じく、引用ベースで書く

もう少しライトなフォーマットにするなら、こうでしょう。

> 発言
これは Reply です

> 発言
これは Reply です

> 発言
✄これは Prune です(✄がついているので Prune だとわかります)

...

Add:

- 追加したい議論その1
- 追加したい議論その2
- ...

Slack 上でいちいちこのようなフォーマットを使うことに抵抗を覚えるかもしれませんが、慣れてください。もちろん Slack でやりづらい場合は、他のコミュニケーションツールに誘導しても構いませんし、普通はそうなります。たとえば QWINCS ですね。

私の感触では、Slack のようなチャット上で RAP フレームワークを採用できるかどうか が分かれ目と感じます。この程度ができない組織に、非同期ワークを定着させるのはほぼ不可能です。別の言い方をすると、非同期ワークを定着させるには、これくらいの手間とメンタルモデルの変更が必要だということです。

例3: 1on1 その他対面で行うような雑談

まず純粋に非言語コミュニケーションを行って関係性を深める目的があるなら、RAP でも代替できませんので、素直に同期コミュニケーションをしてください。

しかし、情報のやりとりや議論や合意形成がしたいだけであれば、RAP でも足ります。対面で交わす情報を全部テキストに落として、RAP でやりとりすればいいだけ だからです。

おわりに

非同期ワークを上手くやるために、RAP フレームワークを紹介しました。

RAP はシンプルですが、これを採用できるかどうかが分かれ目です。シンプルですが、同期ワークとは何もかもが違うのでかんたんではありません。それでも、非同期ワークがしたいなら試してください。練習してください。フルアシンクの道も一歩から。

※もちろん非同期ワークが常に正しいと言っているわけではありません。ただし、現状はまだまだ非同期ワークが軽視されていますので、もっと勉強してはどうですか、投資してはいかがですかと勧めています。