越境場
越境場(えっきょうば)
- サイロ・エフェクトの軽減に寄与する、越境的な場のこと
背景
- ジリアン・テットのサイロ・エフェクトが出発点
- ハッカソンを挙げており、異なる部門の者が集まって一緒につくりあげる体験が固定観念を揺さぶる
- テットの言葉だと、組織の分類体系(タクソノミー)そのものを揺さぶる
- このような場を継続して、揺さぶり続ける・越境的なネットワークをつくっていくことが大事
- 私はこの考え方を一般化し、「場」に注目して、越境場と名付けることにした
越境場の成立条件
- 1 チーム編成が越境的(別サイロの人間と組む)であること
- 理想的には同じサイロのメンバーが被らないこと、あるいは被ってもいいが面識がないこと
- 同サイロメンバーがいると越境体験がしづらくなる(外国で日本人集団で固まって過ごしてしまうのと同じ構図)他、人数が多い分パワーバランスも乱れてしまい、そのチームはそのサイロの色が強くなる
- 2 観客がいること
- 越境場は「チーム内での密な体験」「他チームの成果物の鑑賞」「その後の交流」の 3 点を提供する
- 鑑賞者目線とその後の自由なネットワーキングがあるからこそ、越境場が豊かになる
- 3 日常の序列と評価から切り離されていること
- 役職、所属、KPI など日常の制約からは切り離した「祝祭」であるべき
- 切り離せていないと、参加者は自サイロの代表者として振る舞ってしまい、場が政治的になる
- 4 共通言語としての成果物が定義されていること
- サイロが異なる者どうしの翻訳装置として共通言語が必要であり、これは越境場が「この場でつくる成果物」の形で定義する
- 共通的な成果物が定義されていることにより、これに対するアプローチや品質の違いを比較できるようになる
越境場の例
- ハッカソン:
- 2026 年現在、最も有名な越境場
- 難点は「作り手」でなければ参加・貢献できないハードルの高さと、運営が大変であるがゆえに頻度が落ちること
- 公開ポストモーテム:
- ポストモーテムは通常、同サイロ内で行うが、これを開放して他サイロメンバーも参加可能にしたもの
- ハッカソンでたとえるなら、インシデントがお題で、アウトプットがレポートのようなもの
- ただしチームメンバーのみで密につくるというよりも、観客も交えて様々なコメントと議論を集めた上で、チームが最終成果物をつくる
- また最終成果物は「お題となるインシデントを所有するサイロのメンバー」が負わねばならない
- 混成演習:
- 架空の障害、チーム内や部門間や顧客との紛争、その他有事に対応する訓練を行う
- 主な演習パターン:
- パターン1: CTF のように「実際にいじれる環境」を用意して、各チームに解かせる
- パターン2: 演者(例:顧客役)を用意し、各チームは演者と応対する
- パターン3: 事前に判定 AI を用意し、各チームはプランをこれに提示して高いスコアを出すことを目指す
- すでに研修の形で事例は豊富と思われるが、越境場として設計し直す必要がある
- 研修における演習は(サイロに入る前の)新人か、同サイロメンバー内を想定する
- しかし混成演習では、特定のサイロに属した現役の社員で混成チームをつくる必要がある
越境場の開催期間:
- 最低でも 1 日、長くても 5 日(一週間)
- まず短すぎると没頭や関係性構築に至れないため、最低でも Day レベルにする
- しかし長すぎると新鮮味や熱量が覚めるし、社会人として現実的でもないため、一週間までとする
- この間、日常の責務は完全に免除される必要がある
- おそらく出張や宿泊の形で「日常から隔離した環境」が必要になる
- 暇な時間やゆとりが生じるだろうが、それでいい
- むしろ各自の内省や交流に任せる。このゆとりある自由が越境場の体験を豊かにする
課題:
- ファシリテーションをどう設計するか
- ハッカソンはある程度「型」が確立されつつあるが、越境場全般という目線での型はまだない
- 越境場の具体例をどうつくるか・試すか
- ハッカソンは越境場の実装の一つと言える
- 他の実装をどう考案し、検証していくか、の解がまだない
- インセンティブのジレンマとどう付き合うか
- 越境場は本質的に日常の指示命令や評価から切り離したものである
- しかし、評価されない営みはインセンティブが低く、好奇心や交流の素養を持つ者以外の食指が伸びにくい
接続:
- ジリアン・テット『サイロ・エフェクト』(文藝春秋): 本ガイドの出発点。ソニーの失敗、Facebookのハッカソン/ブートキャンプ/Hackamonth、タクソノミーを揺さぶるという処方箋。
- 越境学習(石山恒貴ほか): 所属組織の境界を越えた学びに関する日本の人材開発研究の系譜。「越境」の語をここから借りることで既存研究に接続できる。
- 場(Ba)(野中郁次郎の知識創造理論): 知識が個人間で共有・変換される物理的・仮想的・心理的な共有文脈。英語文献でも「Ba」として定着。「場」の語と読みをここに揃えている。
- 場のマネジメント(伊丹敬之): 日本の経営学における「場」概念のもう一つの系譜。
- 接触仮説(社会心理学): 共通目標下での対等・協働的な接触が集団間の偏見を減らすという知見。条件①③の裏付け。
- 境界オブジェクト(boundary object): 異なる専門コミュニティが各自の文脈で解釈しつつ協働の接点にできる人工物。条件④の理論名。