1. コミュニケーションにおける「3つの拘束」
    1. はじめに
    2. 背景
    3. 拘束は3種類ある
      1. 場所の拘束
      2. 時間の拘束
      3. 話題の拘束
    4. 拘束を突破する
      1. 場所の拘束を突破するには
      2. 時間の拘束を突破するには
      3. 話題の拘束を突破するには
    5. ツールによるアプローチ ~フローとストック、そしてフロック~
      1. フロー型
      2. ストック型
      3. フロック型
    6. Q: 拘束は常に突破するのが良いのか?
    7. 拘束の突破程度を使い分けるという発想 ~リストレイントシップ・スイッチング~
      1. リストレイントシップとは
      2. リストレイントシップを使い分ける
    8. 7つのリストレイントシップ
      1. 1: 場所を突破する(Lo)
      2. 2: 時間を突破する(Ti)
      3. 3: 話題を突破する(To)
      4. 4: 場所と時間を突破する(LoTi)
      5. 5: 場所と話題を突破する(LoTo)
      6. 6: 時間と話題を突破する(TiTo)
      7. 7: 場所と時間と話題を突破する(LiTiTo)
      8. サマリー
    9. リストレイントシップ・スイッチングの戦略
    10. フロック型の主要な問題点とその対処案
      1. 文字入力のハードル
      2. 脱・チャット
      3. フォーマッティング
      4. 締切問題
      5. 拘束適応
    11. おわりに
    12. 参考
    13. 更新履歴

コミュニケーションにおける「3つの拘束」

はじめに

本文書では 仕事上の コミュニケーションにおける拘束が3つほど存在することを紹介する。各々に関する概要、実例や限界などの深堀りを行い、その後、いかにして突破していくかの戦略(リストレイントシップ・スイッチング)を示す。

背景

コミュニケーションには拘束がつきまとう、ということは今まで考えもされなかった。しかし技術の発展に伴い、時間や場所の制約を超えたコミュニケーションが可能となった。これは時間や場所といった拘束を突破できるようになった、とも言える。

拘束の突破は今後、ますます重要になる。というのも、現代は VUCA であり、多様性の考慮配慮が求められ、リモートが台頭してきたからである。学習と変化は絶えず続き、生産性やストレスフリーもいっそう求められるようになっている。このような時代の、あるいは現代人のニーズに応えるためには、前時代的な拘束を緩めなくてはなるまい。

拘束は3種類ある

場所、時間、そして話題。

場所の拘束

同じ場所に集まらなければならない という拘束。

例:

時間の拘束

同じ時間帯に居合わせなければならない という拘束。

例:

話題の拘束

同じ話題(同時の一つの話題)しか扱えない という拘束。

例:

拘束を突破する

場所の拘束を突破するには

遠距離でもやり取りできる手段を使う。

例:

リアルタイム性が維持されていることには注意したい。たとえば手紙は、場所の拘束の突破にはならない。

このような手段には、多かれ少なかれ技術を必要とする。人力だけでは実現しえない。が、デジタルが普及した現代ではごくありふれたものである。

時間の拘束を突破するには

リアルタイムでなくてもやり取りできる手段を使う。

例:

このような手段は、手紙で知られるように最も馴染み深いものだろう。技術を使うことで、やり取りにかかる時間を短縮できる。メールからチャットへの転換(ビジネスでは Slack や Teams、プライベートでは LINE など)は記憶に新しい。

話題の拘束を突破するには

トピック指向が行える手段を使う。

例:

トピック指向とは、「トピック(話題)単位に独立した場に、その話題に関することを書いていく」という形態を指す。最も馴染み深い言葉は「ページ」だろう。

トピック指向の導入により、各位は自分のタイミングで書き込むことができる。たとえば13:00にAさんがページXXXに書いているときに、BさんがページYYYに書いたり、23:00にCさんがXXXについて加筆したりといったことができる。

このような手段には、技術のみならず、各位の深い素養も求められる。

素養の例:

ツールによるアプローチ ~フローとストック、そしてフロック~

チャットや Wiki といった例を挙げたが、これらコミュニケーションツールにはいくつか種類がある。

各々について概要、実例、拘束の突破能力とその限界を見ていこう。

フロー型

メールやチャットのような「現実におけるリアルタイムなやり取り」を模倣した形態を指す。歴史的にはメールが先で、その後台頭してきたのがチャットだ。特にビジネスで用いられるチャットはビジネスチャットと呼ばれ、Slack や Teams などが広く使われている。

2021/10 におけるフロー型の主流はチャットである。

拘束の突破については、以下のとおり。

弱点は以下である。

ストック型

Wiki のように「書き込みのしやすさ」「トピック指向(≒ページ)」「情報の集積と洗練」に特化した形態を指す。歴史は(ICTにおいては)古く、Wiki のコンセプトは二十年以上前から存在し、今なお発展し続けている。コミュニケーション手段としての利活用はあまり発展しておらず、主な用途は有志による情報の集積と洗練(Wikipediaやゲーム攻略Wikiなど)か、社内における情報共有手段(ファイルよりもカジュアルかつアジャイル)であろう。

2021/10 における例をいくつか挙げる。

拘束の突破については、以下のとおり。

コミュニケーションとして利活用する際の弱点は以下である。

フロック型

フロー型とストック型の良いとこどりをしたのがフロック型である。フロックとは筆者による造語であり、フロー + ストックから安直にフロックと名付けた。

フロック型は以下の特徴を備える。

2021/10 における例をいくつか挙げる。まだまだ発展途上であり、「こうあるべき」という統一性はまだ拓かれていない。

拘束の突破については、以下のとおり。

弱点は以下である。

Q: 拘束は常に突破するのが良いのか?

Ans: そうでもなさそうである。

たとえば Microsoft の CEO サティア・ナデラはハイブリッドワークのパラドックスを述べている。

曰く、リモートワーク(従来よりも拘束を突破した働き方)は生産性を高めるが、リモートだけでは物足りずオフィスワーク(従来の拘束の強い働き方)もある程度は望まれていると。

同様の見解は Google など他の企業も出しており、そもそもそうであるからこそハイブリッドワークなる言葉が生まれたのだろう。

もっとも、このような解(ハイブリッドが必要である)が最適であるかはまだわからない。単に 拘束を突破したまま オフィスワークから得られる相当のものを得るやり方を知らないだけかもしれない。実際、話題の拘束突破を実現する Scrapbox は、Microsoft や Google ではなく Nota, Inc. という小さなベンチャー企業から生まれた。

拘束の突破程度を使い分けるという発想 ~リストレイントシップ・スイッチング~

今の時代、特定の一つのやり方だけで通用するケースはあまりない。むしろ複数のやり方を持っておき、状況に応じて変えるのが自然であろう。

例:

拘束の突破についても同様である。

リストレイントシップとは

リストレイントシップ(Restraintship)とは、3つの拘束のうちどれを突破するかを示すものである。

※筆者の造語である。

具体的には、以下の 7 種類が存在する。

リストレイントシップを使い分ける

既に見たとおり、特定のリストレイントシップ一つだけを常に使い続けることは好ましくない。状況に応じて使い分けた方が柔軟である。

使い分けるためには、各リストレイントシップを理解しておく必要がある。もちろん、単に理解しただけで即座に使い物になるわけではなく整備や練習は必要だし、人や組織によって合う・合わないもある。

7つのリストレイントシップ

各リストレイントシップについて概要、例、特徴などをまとめる。

1: 場所を突破する(Lo)

Lo は以下を意味する。

たとえば電話、音声会議、ビデオ会議などはこれである。原理的にはチャットでも可能だが、リアルタイム性が乏しいため音声やビデオに頼ることが多い。「ちょっと話しませんか」の決まり文句は、ビジネスパーソンなら一度は受けた(あるいは使った)ことがあろう。

Lo が向いているのはマンツーマンのやり取り、親近感の醸成、糾弾や詰問などである。逆に、3人以上のやり取りや、情報を主体とした活動(情報共有や議論)には弱い。

Lo は基本的に成立する。最低限のリテラシーと環境さえあれば始められるし、今や LINE は一般人も当たり前のように使うツールである。そうでなくともメールや電話は、知らない・使えない方が珍しかろう。

Lo の有効性は、チームメンバーの人数と自律性次第である。少人数かつ自律的なメンバーが揃っていると、有効である。いわゆる「阿吽の呼吸」が使えるからだ。逆にそれ以外――大人数であるか、自律的でないメンバーがいる場合だと、大して有効ではない。よく見られる現象は「SPOF なキーマン」であろう。これは優秀なリーダーや管理者(キーマン)が n 人のチームを仕切っている状況で、キーマンはしばしばメンバー全員の招集&一人ずつヒアリングを行う。すると、今キーマンと話している以外の n-2 人は手持ち無沙汰になる。キーマン一人が回しているというわけだ。また、キーマンにとっては一番やりやすいやり方でもあるため、他の n-1 人は「長時間の手持ち無沙汰拘束」に耐えるしかない。

2: 時間を突破する(Ti)

Ti は以下を意味する。

たとえば職場の掲示板やホワイトボード、デスクに手紙を置く、回覧板などはこれである。

Ti が向いているのは情報共有、特に連絡である。逆に、リアルタイム性や応答性(何度もやり取りする)を求められるコミュニケーションや、情報量の多い情報の伝達・共有などには向いていない。

Ti が成立するのは、メンバーの動線が存在する場合だけである。 動線 とは普段何度も通る場所や見るものをいう。Ti の場合、場所は拘束されたまま(つまり出社している)であるが、これはつまりオフィスという動線があるとも言える。自分の島があり、机があり、伝言掲示板があり、ロッカーなどもあろう。そういった動線に連絡に掲示すれば、ほぼ確実に目に入る。いちいち口頭で伝えずとも、置いておくだけで伝えることができる。

Ti の有効性は、チームによって非常にばらつきが大きい。早い話、掲示物を見ない人には届かないし、見ても忘れる(メモを取ったりタスク管理したりなど然るべき対処をしない)人にも実質届いていないに等しい。逆に、律儀にチェックもするし対処もしてくれる人たちばかりであれば、定期的な会議をなくして原則掲示だけで済ます、といったスタイルも可能となる。Ti は、良くも悪くも個人の性格に左右される。

3: 話題を突破する(To)

To は以下を意味する。

たとえば研修における個人ワーク、打ち合わせやイベントにおける投票タイムなどはこれである。

※To は直感的に理解しづらいものだが、図書館でn人が各自の自習をしているシーンを思い浮かべてもらいたい。あれもまた To である。つまり To とは 同じ場所かつ同じ時間を過ごしているが、各自やっていることは違うし、お互いに干渉しない ものだ。また、ヒソヒソ話をするなど、必要な人は緩く干渉することもできる。

To が向いているのは、共同作業(会議含む)における個人ワークの確保である。逆に、個人の域を超えた決定や連携には向いていない。

To が成立するのは、To が行えるという前提(To ルール)が場に共有されているときだけである。そもそもコミュニケーションはリアルタイムで双方向なものであり、原理的に To が存在しない。To ルールがなければ、人はリアルタイムかつ双方向なやりとりをしようとする。特に日本は階層主義(上司に逆らわない。たとえば上司の前で自分だけ違うことはしない)かつ合意形成主義(全員からの合意を取って初めて先に進む)であるため、自発的に To が発生することは稀である(※1)。

To の有効性は、チームの(To に関する)知識と経験に依存する。たとえば「全員が同じオフィスかつ同じ時間帯に出社するが、口頭での会話はよほど必要なとき以外はしない」というスタイルがあったとして、これに同意できるだろうか。これで仕事が回ると思うだろうか。知識と経験がない場合、No と即答するだろう。一方、有している人なら Yes と答えられる。要するに、To はコミュニケーションの原理(リアルタイムと双方向)から背くものであり、自然に身につくものではない。 To はスキルである。訓練しなければ、使えるようにはならない。

※1 異文化理解力 ― 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

4: 場所と時間を突破する(LoTi)

LoTi は以下を意味する。

たとえばメールやチャットはこれである。一般的にフロー型はこれに相当する。ただしリアルタイムなやり取りが行われる場合は(時間も拘束しているため) Lo に成り下がる。

LoTi が向いているのは、報連相全般である。逆に向いていないのは、リアルタイム性や情報量・情報の密度が要求される場面である。

LoTi が成立するのは、LoTi を行えるツールが整っているときだけである。たとえば Teams や LINE が導入されていない職場ではチャットは使えずメールで頑張ることになるし、現地で肉体労働する仕事ではメールも使えないし、そもそも LoTi という発想がない(必要がない)。

LoTi の有効性は、個人の資質に左右される。LoTi が不得手とするリアルタイム性・情報量・情報密度をカバーする際、人はどう行動するか――これが資質によって分かれる。一つは Lo など拘束を強くしてカバーしに行くタイプ(Tighter)、もう一つは LoTi ツールの使い方や運用、あるいは文面を工夫するなど拘束レベルを変えないでカバーしに行くタイプ(Slacker)である。外交的で行動力のある者は前者を多用するし、内向的で思考力のある者は後者を重視する。早い話、Tighter が多いと LoTi はあまり使われないか雑に使われ、Slacker が多いと LoTi がよく使われるし使い方にも工夫がなされる。

5: 場所と話題を突破する(LoTo)

LoTo は以下を意味する。

LoTo に相当する、一般的な取り組みは筆者の知る限り存在しない。

筆者が提案するやり方として Teeting がある。これは Text + Meeting から取ってきた造語であり、「制限時間の間」「参加者全員が」「n個の議題が書かれているエリアを自由に編集」することで議論を行う会議形態である。つまり どこから参加してもいいし、どの話題に書き込んでも構わないが、会議時間だけは守れ(そして時間内に全議題について結論を出すよう立ち回れ) というものだ。

6: 時間と話題を突破する(TiTo)

TiTo は以下を意味する。

TiTo に相当する、一般的な取り組みも筆者の知る限りでは存在しない。

強いて言えば、右記のようなスタイルになるだろう――チーム全員が会議室など一箇所に集まり、フロック型ツールでコミュニケーションを行う。過ごし方も、話題の選択(どの話題に何を書くか)も、完全に自由。もっともあえて場所だけを拘束する意味はわからないが、メンバーの存在が感じられることによる孤独感の減少や、他メンバーの過ごし方を知ることによるインスパイア(「そんなに休んでも仕事できるんだ」とか「普段からそんなに集中しているのか」といった刺激)といったメリットはあるかもしれない。

7: 場所と時間と話題を突破する(LiTiTo)

LiTiTo は以下を意味する。

LoTo に相当する、一般的な取り組みについても筆者の知る限り存在しない。

強いて言えば、Nota 社の働き方が参考になるだろう。同社の Scrapbox 開発チームでは、ほぼ Scrapbox のみで仕事が回っているという。唯一の例外は指示とお願いであり、Slack を使っている。ただし議論は Slack ではなく Scrapbox で行う。つまり Slack(というよりフロー型ツール)は、Scrapbox に誘うための 呼び出しベル でしかない。

サマリー

凡例: :runner: 具体例、:o: 主に向いていること、:x: 主に向いていないこと

リストレイントシップ・スイッチングの戦略

リストレイントシップ・スイッチングはどのように行っていけば良いだろうか。汎用的に使えるであろう戦略について、かんたんに取り上げておく。

とにもかくにも Default Slack から始まる。

常に拘束突破したままと色々と不都合が出てくるので Tight As Needed する。

使い分けの周知については、「強制」「放任」「免除」などを用いる。

フロック型の主要な問題点とその対処案

フロック型ツール(≒Scrapbox)により、拘束突破という世界は大きな広がりを見せている。特に話題の拘束を突破できることが大きい。しかし、まだまだ問題は少なくない。

そのいくつかについて、筆者が考える対処案と併せて紹介したい。

文字入力のハードル

文字入力は現在のところタイピング(フリック入力踏む)がメインだが、これを十分にこなせない者も多いと思われる。筆者の観測範囲で恐縮だが、特に 40 代以上のビジネスパーソンは右記の三重ハードル――対面口頭至上であり、対面口頭ばかりしているがゆえに文字入力が鍛えられず、また若くないために習得要領も良くない――に見舞われている傾向がある。また、最近の新入社員は PC を触れておらずタイピングが全くの初心者である、というケースも散見される。このような格差を 文字入力格差 と名付けることにしよう。

拘束突破を促進するためには、この文字入力格差を縮めなくてはならない。もっとも優秀な組織や小さな組織、あるいは普段から書くことに慣れている組織であれば「文字入力できる人だけを集める」で済むかもしれないが、そうでない大多数の組織ではそうもいかない。

この格差を縮める鍵は、音声入力にあるのではないか。重要なのは以下だと筆者は見ている。

要するに利用ハードルを下げることと、口頭コミュニケーションが備えている微妙な機微の再現または代替の二点である。

実現性はあると思う。少なくとも技術要素は既に揃っている。最大の懸念であろう音声認識も、既に実用の域には達しており、たとえば 野口悠紀雄勝間和代 は仕事で活用しているという。

脱・チャット

フロック型はリアルタイム性に弱いため、まだまだチャットは必要であろう。既に述べたように、Nota 社の例でも指示やお願いには Slack が使われている。しかしここにも問題が孕んでいる。

フロック型に慣れていない者が、チャット側を多用してしまうという問題だ。これはメールに慣れていない者が依然として口頭を使ったり、チャットに慣れていない者が依然としてメールを使ったりといったように、身近な現象である。これを オールドバインド(Old Bind) と呼ぶことにしよう。

拘束の突破を促進するためには、オールドバインドを防ぐ必要がある。たとえばリアルタイムなやり取りを行える能力をフロック型ツールに持たせる、リアルタイムなやり取りを行うに足る最低限のツールを新たに開発するなど。要は、チャットというツールが「コミュニケーションや仕事が成立するほどの能力」を持っているのが問題なのである。持っているからこそ、オールドな人たちが依然として頼ってしまう。だったら、頼れなくすればよい。

具体的にはどうすれば良いか。まだ筆者の中でも大した案は出ていないが、Scrapbox で脱・チャットを行う場合、たとえば次のようになるだろう。

このような X を使うようにすれば、メンバーは必ず Scrapbox(というフロック型ツール)を経由することになる。安易にチャット上でコミュニケーションを進むのを防げるというわけだ。ちなみに、内密にやりとりしたい場合は、Scrapbox に「内密の件があるので電話ください」などと書けば良い(※1)。

※1 チャットコミュニケーションの問題と心理的安全性の課題 #EOF2019 では、このような閉鎖をしても「別の手段で代替されるだけ」としている(p26)。また、いかにして Public な場に誘導するか、Public な場を使いやすくするかが大事だとも述べている。

フォーマッティング

Scrapbox には「メンバー全員が自由に編集できるページ」のみが存在する。自由に編集できるとはいえ、メンバー全員に配慮した立ち回りは依然として必要だ。たとえばAさんが書いた文章の位置を変えたい場合は、勝手に修正したといったどうすれば良いだろうか。また、Bさんがいつも冗長に書きすぎてノイジーなのを何とかしたい場合はどうすればいいだろうか。あるいはページごとに書き方が異なって読みづらい現状をどうにかするにはどうすればいいだろうか。

究極的にはチーム内での取り決めの問題であり、各個人のフィルターリテラシー(見る情報を自立的かつ自律的に取捨選択することを厭わない素養)の問題である。

この問題に立ち向かうための、よく知られた方法は「形式(フォーマット)を定めて」「皆で守る」ことだろう。これを フォーマッティング とでも呼ぶことにしよう。たとえば書籍は論文は、形式が統一されているため読みやすい。もちろん、形式があるとは形式を守ることであり、守るためのコスト(書くコストや整理するコスト)はかかる。重要なのはトレードオフだ。それも一度決めたら終わりではなく、状況に応じた調整は常に必要だ。フォーマッティングとは動的なものである。

さて、このフォーマッティングは、一体誰がどのように推進していけば良いのだろうか。あるいはどのようなツールや機能や方法論があれば回るだろうか。筆者はまだまとまった答えを出せない。

締切問題

拘束の強い会議がなくならない理由の一つが「締切に間に合わせるため」だ。もっというと、締切に間に合わせるためには、リアルタイム性の高いコミュニケーションで集中的に突き詰める必要があるが、これを行える手段が今のところ対面口頭しか無い。

拘束を突破できたとしても、この 締切問題 自体がなくなるわけではない。拘束を突破したまま、締切問題を解決する方法を考えなくてはならない。

筆者が提案するのは、場所と話題を突破する(LoTo)リストレイントシップ――Teeting である。既に述べたが、Teeting とは Text + Meeting からつくった造語であり、言わば筆談会議である。フロック型ツール上で、制限時間以内に、参加者全員が各自自由に編集を行い、しかし結論を出すというものだ。無論、何のお膳立ても無しに行えるはずはないから、何らかの方法論を整え、仕組みとして実装する必要があろう。

拘束適応

まだ仮説段階だが、人は現在(特に長期的に)受けているリストレイントシップに適応する。これを 拘束適応 という。

一度適応したリストレイントシップに抗うことは存外難しい。たとえば日中の半分以上を会議に使っている者が、LiTiTo を取り入れることはまず不可能である。withコロナに伴うリモートワークへのシフトは記憶に新しいが、これは言い換えれば、パンデミックのインパクトがあってようやくリモートワーク(つまり Lo や LoTi)に移れたとも言える。中には(移ろうと思えば移れるのに)未だに移れていない企業もあれば、移行としたと豪語する企業もその実態は Lo の温床だったりする。拘束に抗うことは、かくも難しい。

ちなみに逆のパターンもありえる。たとえば LiTiTo により一日一言も喋らずにフルリモートで仕事を進めるのが当たり前な者にとって、LoTi や Lo は相当に辛い。ハイブリッドワークで出社して会議しよう、などもっての他である(※1)。

問題になるのは、複数の適応レベルが混ざったときである。極端な話、LiTiTo に慣れた者は「会議など要らない、全部書けばいい」と主張し、Lo に慣れた者は「とにかく話し合おう。声で会話しよう。ビデオをオンにしよう」と主張する。分かり合うことはできない。たいていは権力者が多数属する Lo 側(リストレイントシップのきつい側)が勝利することになる(※2)。

拘束適応した人に対して、いかにしてリストレイントシップ・スイッチングを行うか。また適応させないためにはどのようにスイッチングすればいいのか。難しい問題であろう。

※1 難しいのが「孤独感」の問題である。たとえば拘束適応に抗うのは辛いが、直接出会えたことによる孤独感の減少が幸せである場合、あえて抗う行動が見られる。見かけ上は拘束適応していないように見え、議論をややこしくする。

※2 複数の適応レベルが混ざることは珍しくない。たとえば、リストレイントシップのきつい会社に勤める A さんがいるとしよう。A さんは毎日定時で帰宅している。独身であり、プライベートでは LiTiTo により多数の人やコミュニティと関わっている。この場合、A さんは LiTiTo 側に拘束適応していることが多い。逆に会社はリストレイントシップがゆるく、プライベートではきついがゆえに、きつい側に拘束適応しており会社が辛いというケースもある。

おわりに

本文書では以下を取り扱った。

本文書が、日々コミュニケーションに腐心し苦戦する読者の方々の参考になれば幸いである。

参考

更新履歴

Back to the toppage.