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ソフトスキル・エンジニアリングとは

まずソフトスキルとは何かを深堀りした後、そのエンジニアリングとはどういうことかを定めていきます。

ソフトスキルとは

ソフトスキル とは 人を扱うためのスキル を指します。人としては自分も他人も含みますし、扱い方もコミュニケーションだけではなくドキュメンテーション、創造的思考、マネジメントなどもあります。またコミュニケーションであっても同期と非同期がありますし、マネジメントの中には自己管理も含まれます――と、このように、非常に広域な領域と言えます。

スキルというと、ハードスキルを思い浮かべるかもしれません。ハードスキル とは機械や道具、法規や会計その他学術的に確立された体系を扱うスキルです。また人に関する者であっても医療はハードスキルですし、心理学や経済学もハードスキルに含められるかもしれません。

別の言い方をすると、ハードとソフトを分かつのは正解の有無です。ハードスキルには正解があり、定量的または定性的に確かな測定が可能です。結果がわかるとも言えます。一方、ソフトスキルはそうではなく、正解がありません。あるのは意思決定とその結果だけです。なぜなら、人という極めて複雑かつ尊重せねばならないものを扱うからです。

ソフトスキル≒コミュニケーションスキル、ではない

よく見かける定義が「ソフトスキルとは主にコミュニケーションに関するスキルである」ですが、このような定義は今すぐ捨ててください。コミュニケーションスキルは、ソフトスキルの構成要素の一つにすぎません。むしろ、コミュニケーションスキルにとらわれてしまうことで、他のソフトスキルについて考える余地がなくなってしまいます。

ソフトスキルにおけるコミュニケーションスキルは、プログラミングで言えば C 言語のようなものです。根源的な要素ではありますし、これさえあれば割と何でもできてしまいますが、古典的かつ原始的です。コミュニケーションスキルばかり唱えている人や組織は、C 言語ばかり唱えているようなものです。

ソフトスキルはソフトウェアのようなもの

ソフトスキルに正解は無いと書きました。あるのは人それぞれ、組織それぞれのあり方です。

たとえば 1on1 を例にしましょう。

1on1 のあり方に正解はありません。上司と部下が月一度で実施する 30 分の 1 対 1 のミーティングかもしれませんし、同じミーティングでも頻度が週一かもしれませんし、話す話題についても業務やキャリアといった真面目なものから、単なる雑談まで様々です。また同じマネージャーであっても、人や状況によって使い分けるはずです。

重要なことは、1on1 という「正解の無い営み」に対して具体性を与えることです。実装すると言っても良い。ソフトウェアと同じです。要件からソフトウェアを実装するように、1on1 という概念から実体をつくって運用する のです。

たとえば次のような実体が考えられます。

まるで関数やインスタンスですね。もちろんパラメーターを変えることで、別の実体も作れます。以下を見てください。

私は Free 1on1 という「従業員なら誰でもいつでも誰にでも 1on1 を申し込める」あり方を開発しています。元ネタは GitLab の Coffee Chat です。

概念の開発なので難しく見えるかもしれませんが、そんなことはありません。上述したとおり、ただの設定ファイルにすぎません。

おわかりいただけたでしょうか。ソフトスキルはソフトウェアと同じで、各自が実装できるものなのです

ソフトスキルは勝手には動いてくれない

しかしながら、ソフトウェアと明らかに異なる点が一つあります。ソフトウェアは実行するだけで動きますが、ソフトスキルは人間自らが運用しなければなりません

上述した Free 1on1 もただのテキストにすぎません。実際に人間が行動しなければならない。もちろん、いきなり会社全体に採用させる(ソフトウェアでいうと全社レベルのシステムとしてデプロイする)ことなどできません。本気でやりたいなら企画として正式に提出するなり、ボランティアの小さな活動からボトムアップで盛り上げていったりするでしょう。もちろん、コミュニケーションやマネジメントやその他多くのソフトスキルが要求されます。

この点はソフトウェアと似ていますね。ソフトウェア開発時は、実に多くのソフトウェアを使います。同様に ソフトスキルを開発するときも多くのソフトスキルを使います

ソフトスキル・エンジニアリングとは

準備が整ったので、本題に入りましょう。

ソフトスキル・エンジニアリング とは、ソフトスキルを自ら扱えるようにするための工学です。暗黙的なものを言語化したり、既存のものをカスタマイズしたり、もちろんゼロから新しくつくることも含みます。長いので SSE と略す ことがあります。

工学ではありますが、アプローチはハード寄りではなくソフト寄りです。つまり絶対的な理論や現象が単一または少数存在していて、いかにそれらを学び、練習や経験を経て、ものにするかという「ゲームのような世界」ではありません。もっとソフトです。

ソフトウェアが関数やモジュールといった部品から成るように、ソフトスキルも 概念(言語化されたテキスト)という部品 から成ります。概念というと抽象的に聞こえるかもしれませんが、ここでは具体的な手順その他リスト、明快な原理を述べたガイドラインなど、 言語化されたあらゆるものを含む と考えてください。もちろん研究によって有効性を証明された概念もあれば、特定個人が思いつきで言語化した概念もあります。

ソフトスキル・エンジニアリングとは(もう一度)

これで、さらにわかりやすく定義できます。

ソフトスキル・エンジニアリングとは、概念をつくるための工学です。これには 概念そのものをつくることと、概念を組み合わせて何らかのソフトスキルを実装することの二点 を含みます。この二点を誰でもこなせるように整備した体系です。

ここで概念に正解はありません。有効性や権威性の度合いに違いこそありますが、何を使っても自由です。この性質をソフトと呼んでいます。逆にハードスキルの世界では、正解またはセオリーとなる単一または少数の何かがあって、それらをどれだけ身につけられるかどうかがすべてです。本質的にはゲームとも言えます。勝つためには、少しでも確立された手段を選んで使い続けるしかないのです。この「よくある」性質をハードと呼びました。

ソフトウェア・エンジニアリングはハードでしょうし、私たち開発者やマネージャーその他ビジネスに携わる人々もハードを好みますが、ソフトスキル・エンジニアリングは違います。ソフトなのです。

まとめ

ソフトスキル:

概念:

ソフトスキル・エンジニアリング: