本章ではソフトスキルの全体像を描きます。
SSE では ソフトスキルの体系化に正解はない と考えます。ここで体系とは階層的な分類を指し、たとえば大中小のカテゴリーが相当します。これを ソフトスキル・ツリー あるいは単にツリーと呼ぶことにします。つまり SSE では絶対的なツリーが存在するわけではなく、必要に応じてツリーをつくるのです。
たとえば以下のようなツリーを考えます。
これは大カテゴリに「コミュニケーション」、その中に中カテゴリとして「ミーティング」、そしてさらにその中に小カテゴリとして「1on1」があります。これが正しいと言っているわけではなく、単にこのように定義してみただけです。
もう一つツリーをつくってみましょう。GPT-5.2 に以下を与えてみました。
ソフトスキルの大カテゴリを 5 つに整理して。またそれぞれの構成要素も 5 つずつ挙げて。つまり 5x5 の 25 行のリストが出来上がるはずです。Markdown のリスト記法で、インデントは 4 スペースにしてください。
結果として、以下のツリーが返ってきました。少し加工しています。
これをそのまま提示したところで「だから何?」としか言えませんし、SSE としてチームや顧客にこれをそのまま提出するのは馬鹿げていますが、ソフトスキルをエンジニアリングする上ではヒントになります。たとえば自分や自分のチームにとってのツリーをつくる際に、参考になるはずです。
最後にもう一つだけ、私がつくったツリーも紹介してみます。5 つの C で統一しています。大カテゴリのみで、サブリストには中カテゴリではなく説明をぶら下げていることに注意してください。
A <-> B。二者間のやりとり。直接的A <-> Output <-> B。間接的この 5C は大胆な取捨選択に基づいたツリーであり、開発者にとって比較的わかりやすいかと思います。少なくとも二番目の 5x5 よりははるかにマシです。
私たちはソフトスキルを知りたいのではなく、役に立つ道具を使いたいのです。そのために SSE という「概念的な道具を扱う工学」を学ぶのが本書であり、本章ではツリーという全体像の話をしています。
ツリーは、いうなればシステム構成図のようなものです。システム構成図がそのシステムに必要な要素とその全体構造を示すように、ソフトスキル・ツリーも、ある目的において必要なソフトスキルの分類を示します。つまり ツリーは必要に応じてつくればいい。
典型的には個人、チーム、または組織の単位でツリーを定義することになります。個人的に身につけたいソフトスキルを整理してもいいですし、チームとして全員が習得するべきスキルをツリー化しても良い。あるいは単に全社レベルでカタログとしてツリーをつくって、社員が誰でも利活用とメンテナンスを行えるようにしてもいい。
いずれにせよ、何かしらのツリーを 自ら つくるべきです。なぜならソフトスキルは非常に広域かつ曖昧なものであり、ツリーがなければ焦点が定まらないからです。
ここで気になるのがスキルの下位概念でしょう。
たとえば以下ツリーが示す、小カテゴリ「1on1」の中には何が入りますか?
あるいは以下の小カテゴリやその先には何が入る?
つまりスキルの下位概念は何なのかという話です。
まず大前提として スキルは創発的なものです。創発とは「全体は部分の総和を超える」性質を指します。スキルと呼ばれるものもまさに創発的であり、単に構成要素を揃えたからスキルですと言えるものではない。単純に考えてもスキルには「人間そのものの性能と調子」「その時の状況や文脈」「経験」などが絡んでおり、とても体系的に説明できるものではありません。
以上を踏まえた上で、SSE では、ソフトスキルの構成要素を端的に表現します。これを 6T と呼びます。
概念については第一章で述べました。SSE はそもそもソフトスキルまたは概念を扱う(つくることも含む)ものです。つまり概念は 4 種類あることを示しています。行動については、概念をどう使うかを端的に示したものです。
以降では順に見ていきましょう。
その名のとおり、まさに直接使うものですが、ハード・ツールは含めない ことに注意してください。言い換えると SSE においてツールと呼んだとき、ソフト・ツールを指すことが多いです。たとえばテンプレート、チェックリスト、手順、分類項目、質問項目といったものです。
私は主なソフト・ツールを 7 観点で整理しました。Seven Lists Principle と名付けており、以下に示します。
Task Span
Trigger Question
Check Label
Fill
詳細は割愛しますが、端的に言えば「指示」「期間」「ヒント」「オープンクエスチョン」「Yes or Noのクローズドクエスチョン」「分類」「埋めてもらう枠」の 7 つです。
ここに当てはまる言葉として「やり方」「手法」「方法」「メソッド」「戦術」などがあります。Tool ほどではないですが、直接使うことができる程度には整ったものです。
たとえば「ブレインストーミング」は Technique になります。元はオズボーンが考案した Technique であり、それなりの前提や手順があります。一方、現代では各人各組織がカジュアルにとらえており、独自の Technique として整備されていることも多いです。
ここに当てはまる言葉として「理念」「戦略」「原則」「ガイドライン」「標準」などがあります。Tool や Technique のように直接使うというよりは、いったん理解しておいて、必要なときに心がけるものになります。
この「心がける」というのが曲者です。心がけるとは実際に理解し、記憶をして、かつ、必要なときに想起した上で自身の行動に反映するということです。これを SSE では 応用 と呼びます。基礎を理解しているからといって応用問題を解けるわけではないように、Thoguht についても、理解しているから使える(行動に反映できる)とは限りません。
たとえば「常に常識を疑え」という、あまりに聞き慣れたフレーズがあるとします。これも Thought と言えますが、これを実際に使うのは非常に難しいでしょう。仕事が忙しいときや家族と喧嘩しているときなど、冷静でないときは全く疑えませんし、何なら自覚した上で疑うのをキャンセルして自分を押し通したりします。
ここに当てはまる言葉として「宗教」「信念」「哲学」「価値観」「文化」「伝統」「前例」などがあります。
SSE では Tenet は新しくつくるというよりも、既存の Tenet を言語化して捉える ことを目指します。
たとえばエリン・メイヤーの「異文化理解力」は、各国の文化という Tenet を明らかにしています。各国を 8 つの指標から捉えており、ある国のあり方が唯一ではないことを明らかにします。日本では「評価」の指標は「間接的なフィードバック」に強く寄っており、事実、ネガティブなフィードバックは 1 対 1 かつ遠回しに伝えねばなりません。ここを破ると日本ではハラスメントになりかねません。
ソフトスキルは実は Tenet に依存していることが多いです。SSE では Tenet を言語化して明らかにし、その上で、どう抗うかを考えることがよくあります。それこそ、日本でビジネスのスピードを出すために直接的なネガティブフィードバックを導入したいとして、いきなりそのための Tool や Technique を揃えても使われません。まずは日本の Tenet を明らかにした上で、じゃあ具体的にどう進めようかと考えねばならないのです。
ソフトスキル・エンジニアリングは Tenet の理解から始まることが多い と考えてください。これはソフトウェア開発で言えばドメイン知識を理解するようなものです。
ここからは概念ではなく行動を表す要素になります。
Training とは、概念を使えるようにするための準備と練習を指します。Tool をつくったり、すぐに使えるよう手元に置いたりといった準備はもちろん、実際にイメージトレーニングをしたり、自分ひとりで使ってみたり、何なら誰かに付き合ってもらって試してみたりといった練習も含みます。
ソフトウェアは実行すれば勝手に動いてくれますが、ソフトスキルは人間自らが運用せねばなりません。スキルですから、その使い手である人間の習熟度が重要なのです。仮に使えたとしても、時間がかかっていては通用しないでしょう。できるだけ即行で、かつ安定して使えるようになりたいのです。
Test とは、概念を使うことを指します。ただの個人または内輪の Traning だろうと、失敗が絶対に許されない本番だろうと、どちらも Test だと捉えます。
このネーミングには SSE の思想を込めています。ソフトスキルの発揮は常に試行的 なのです。絶対的な正解はなく、完成もありえません。あるのはその時その時のベストな意思決定と行動、そしてそれがもたらす結果と、そこから得た学びだけです。SSE は終わりのない旅路なのです。
ソフトスキルは創発的:
6T: