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ソフトスキル開発手法 ~エクスプロラトリ~

ここからは具体的な開発手法を紹介していきます。

概要

エクスプロラトリ はその名のとおり探索的な手法で、探索期間を定めて、その間、ひたすら個人で探究します。

計画もなければ締切もなく、会議も会話もしません。仮に探索期間が二週間とするなら、その間は各個人がひたすら個人で好き勝手に探究します。ただし、これだけでは限度があるので、各自の探究の過程と成果は 必ず公開 します。日本のエンジニアは「分報」をご存知かもしれません(わからなければ X などで一日何件もポストする様を浮かべてください)が、それくらいには発信をします。しなければなりません。そうすることで他メンバー(が出した情報)からヒントとインスピレーションを得ることができます。

段階

エクスプロラトリは以下の 3 ステップを踏みます。

以下順に見ていきましょう。

1: 準備ステップ

準備ステップ では探索期間、メンバー、テーマ、ワークスペースを決めます。

探索期間は少なくとも一週間は欲しいです。できれば二週間以上。メンバーは 4 人以下、かつ可能な限りフルコミットにしてください。最低でも一日のうち半日以上の稼働を必要とします。これは それだけのリソース(人件費含む)も確保することを意味します。サラス・サラスバシーによるエフェクチュエーションには「許容可能な損失(Affordable Loss)」原則があり、最悪ドブに捨ててもいい許容ラインは決めてしまいますが、同じことです。このスタートラインは厳しく聞こえますが、前提条件と考えてください。探索には深い集中が必要ですし、正解がなく常に自ら意思決定を続けるがゆえに疲弊もしやすいため、最低でもこれくらいは揃えないといけないのです。このスタートラインに立てない場合、まずは立てるようになることから始めてください

テーマについては、どんなソフトスキルをつくりたいか・つくるべきかを一言二言で指定します。適当で構いません。どうせ探索していくうちに複数出てきて、あとで取捨選択を迫られます。むしろ、この段階では一言二言以上に詳細に定義するべきではありません。

最後にワークスペースですが、これはメンバー全員が各自の探究過程と結果を共有するための場です。Cosense のようなウィキ、Notion のようなノート、GitHub のようなリポジトリなど手段は複数考えられますが、1万文字のテキストを難なく扱える手段にしてください。これは事実上三択であり、GitHub などプレーンテキストベースで共有するか、Cosense や Notion などの同時編集型のアプリで小分けにする(2000文字 x 5ページなど)か、あるいは両方です。別の言い方をするとメール、チャット、クラウドストレージはありえません。その程度の手段では共有コストが高すぎて、高頻度な共有が成立しないからです。

高頻度な共有と書きましたが、語弊があります。もっとです。理想は 常時共有 であり、探索中に触れた情報と書いた情報をすべて共有するくらいが望ましいです。しかし 24 時間ライブ配信をするわけにもいきませんし、それでは情報量が多すぎて参考になりません。そういうわけで こまめにワークスペースに来て共有する営みが事実上必要不可欠です。X 廃人のように一日何十回と書いてもいいですし、半日に一回くらいのペースで出しても良い。

いずれにせよ、必ず共有しなければなりません。それも垂れ流しではなく、他メンバーが読める程度に整えて(あるいは選別して)ください。これを 共有義務 と呼びます。

共有義務はエクスプロラトリの肝です。計画、管理、会議が一切無い代わりに、メンバーは共有物を頼りにします。自分ひとりでの探索には限界がありますが、他の人の探索の様子を自由に眺めることができたなら、ヒントとインスピレーションが得られます。孤独な探索も継続できるのです。

2: 探索ステップ

探索ステップ では、探索期間が終わるまで探索をします。

探索として何をすればいいか?

答えはありません。とっかかりとして「準備ステップで決めたテーマ」を参考にすること以外は完全に自由です。徹底的にひとりブレストをしてもいいですし、論文を調べまくってもいいですし、インタビューやヒアリングに勤しんでもいい。戦略としても、まずは広く浅く探索しつつ本当に重要なものを見つけたらそこに向かってもいいですし、最初から一方向だけ定めて粘り強く進み続けるでも良い。何一つ正解はありません。探索期間中、持てる全てを総動員して、とにかく広げてください。深堀りしてください。そして共有してください。

ただし 探索サマリー は必ずつくります。これはエクスプロラトリの成果物であり、以下の三つから成ります。

すでに述べたとおり、ソフトスキル開発は概念をつくるものなので、何かしら概念は出てくるはずです。探索期間にもよりますが何十個何百個も珍しくありません。またソフトウェアが行の塊、関数、モジュールと構造化されているように、ソフトスキルも小さな概念から大きな概念へと構造化されているはずです。言い直しましょう。構造化してください

典型的にはソフトスキル・ツリーを定めて、その構成要素として概念を収める形になりますが、厳密でなくてもいいですし、ツリーでなくてもいいので、とにかく構造化をしてください。全体の目線でも捉えられるように仕上げてください。ここをしないのは、ソフトウェア開発で言えばライブラリだけつくりましたと言っているようなものです。つくるべきは製品のはずです。同様に、ソフトスキル開発でもソフトスキルをつくりたいのであって、個々の概念を並べて終わりではないのです。それら概念部品をどう組み合わせて何を成すか、をあなた自身が決めねばならない のです。

最後に文脈については、サマリーに含める概念とその構造化を出すに至った背景を整理します。参考情報はわかりやすいですが、どちらかといえば設計意図が欲しいです。なぜそうしたのか、どういうことをしてきたのか、どのような紆余曲折があったのかをテキストで整理します。生成 AI で解釈すればいいので、綺麗でコンパクトにするよりも、情報量を漏れなく詰めることを意識してください。付録ののようなもので、何万文字、何十万文字と膨大になっても構いません。しかし、最悪他メンバーが(生成 AI を使わず)読んでも通用する程度には整えてください。

3: 振り返りステップ

振り返りステップ は、探索期間が終えた後に実施するもので、メンバー全員による状況報告と次何をするかの議論をします。

前提として、探索サマリーは前の探索ステップでつくっておいてください。また可能な範囲でいいので、ネクストアクション(後述)の持論も考えておくといいでしょう。つまり 振り返りステップでまとめ始めるのではなく、振り返りステップの前にまとめておく のです。振り返りステップでは、メンバー各自のまとめを読めるようにしたいのです。

開催様式ですが、可能な限り合宿やリトリートなど宿泊を伴う環境(終日振り返りステップに集中できる環境)をおすすめします。研修のようにカリキュラムを詰め込むよりは、半分くらいは各人で自由に過ごせるリトリートの方が良いでしょう。というのも、探索を終えた後は疲弊しているはずですし、視野も狭くなっています。ガス抜きした方が心身ともにリフレッシュできて、議論や意思決定の質が上がりやすい。

また報告についても、ひとりずつ発表と質疑応答を回すという形式的なファシリテーションはおすすめしません(メンバーによってはこのやり方が合う可能性もあります)。代わりに、全員集合してはいるが会話はせず、各個人は黙々と探索サマリーを読んでいる、しかし必要に応じて会話もするという「もくもく型」が望ましいです。エクスプロラトリは徹頭徹尾、個人による深い集中に頼ります。振り返りも例外ではありません。対面による口頭の会話では深い集中は難しいので、なるべく避けるべきです。例外として、メンバー善意んが口頭ベースの能力が高くて、かつ心理的安全性も確保されているならば口頭でも問題ありません。

振り返りステップの細かい進め方は問いません。ゴールを満たせればいいだけです。このステップの唯一のゴールは ネクストアクションを決めること です。具体的には以下の 3 パターンがあります。

アボートの場合は、いったんおしまいです。組織としての正式な活動は中止します。

リトライの場合、もう一度準備ステップから回します。テーマは修正するべきですが、ここまでの成果物は引き継がないか、必要に応じて参照する程度にしてください。エクスプロラトリは個人の深い集中による思考が肝であり、過去の成果物はこれを阻害します。そもそもリトライしたいということは探索が上手く行ってないということであり、頭を柔らかくして切り替えねばなりません。

唯一の例外は単に探索期間が足りなかったときです。探索期間が足りなかった場合は、同じ条件で単に期間を延長するだけで OK です。リソースも無制限ではないはずですから、典型的には短めの探索期間を後から後から付け足す運用になるかと思います。つまり最初から半年の期間を設定するよりも、まずは一ヶ月、さらに一ヶ月……のように付け足す運用になるのが普通だと考えます。

最後に、コミットの場合はプロジェクトを起案してください。コミットとは直訳すると約束や宣言をしたり、全力を尽くしたりすることを意味しますが、ここでは開発の先――ABCDウォークでいう Action を意味します。エクスプロラトリが行うのはソフトスキルの開発までであり、その後の提出と運用は含みません。私たちは実際に誰かに影響を与えたいはずですが、与えるためには相応の舞台――組織の正式な活動として行う必要があり、おそらくはプロジェクトになるはずです。もし自分たちにその役割や権限が無かったとしても、それらを行う人達への提案をつくったり、アプローチの戦略を計画したりできるはずです。

エクスプロラトリ・ツール

エクスプロラトリを進めるための Tool をいくつか紹介します。

準備ステップをクリアするためのチェックリスト

エクスプロラトリを始めたいなら、No は 0 個にしたいです。もし No がある場合は、Yes になるまで調査・検討・練習を済ませることをおすすめします。

# 探索期間
- 探索期間は 2 週間以上になっていますか?
    - y | n

# メンバー
- メンバーはあなた含めて 4 人以下ですか?
    - y | n
- メンバーは探索期間中、半日以上を探索に費やせますか?
    - y | n
- 同上、費やせるだけの時間的・金銭的・認知的リソースは確保できていますか?
    - y | n

# テーマ
- テーマは決まっていますか?
    - y | n
- テーマは 2 行以内、かつ 100 文字(英語なら 200 文字以内)で収まっていますか?
    - y | n

# ワークスペース
- ワークスペースとして使うツールはつもりですか?
    - (書く)
- 使うツールが複数ある場合、毎日高頻度で読み書きするメインと補助的に使うサブの 2 つまでに収まっていますか?
    - y | n
- 使うツールが複数ある場合、毎日高頻度で読み書きするメインだけでも探索は成立しますか?
    - y | やってみないとわからない | n
- ワークスペースにはメンバー全員が属しており、読み書きに不自由しない権限を持っていますか?
    - y | n
- ワークスペースは通知がないか、あっても設定もしくは運用回避により無効化できますか?
    - y | n
- ワークスペースとしてメール、チャット、クラウドストレージを含んでいません
    - y | n
- ワークスペースにはメンバー全員が必ず見に来る動線がありますか?
    - y | n
- その動線は一ヶ月以上飽きずに毎日見に来れるようになっていますか?
    - y | やってみないとわからない | n

今日の探索方針を決めるためのトリガーリスト

トリガーリスト(観点集)とは、眺めることで発想と行動を促すものです。探索は完全に自由かつ自律的な活動であり、慣れるまでは何をしていいかわからないので、何をするか決めるためのヒントを貯めておくと便利です。

# 探索時間
- 探索はどの時間帯でやる?
- 少なくとも 2 時間以上のまとまった時間を、割り込みなしで確保できる?
- 確保できない場合、代わりに何をする?

# 探索のバランス
- インプット、思考と試行、アウトプットの配分はどうしたい?
- その配分にしたい理由は?

# インプットとアウトプットの間
- インプットとアウトプットの間は「思考と試行」だと思いますか?
- では「言語化」はどうですか。しっくり来ますか?
- 「思考と試行」でも「言語化」でもない場合、何だと思いますか?

# やり方
- インプット元
    - 他メンバー、社内、社内
    - 書籍、論文、オンラインドキュメント、記事
    - AIチャット、Deep Research
    - 机上調査、ヒアリング、インタビュー etc
- 思考と試行のやり方
    - クリエイティブ・シンキング(発散→収束→蒸留)
    - 対自分(自問自答)、対人、対 AI などで壁打ち
    - イラスト、ソフトウェア、その他作品のプロトタイピング
    - 既存の情報を既存フレームワークを使って or 独自に分類してみる etc
- アウトプットのやり方
    - 分報(1日10回以上の高頻度な投稿)のように、やったことをこまめに書く
    - 1日1~3回のチェックポイントをつくって、そこでサマリーを書く
    - 未整理のメモとして書き殴っておき、チェックポイントにて生成 AI に要約させて出す
    - ワークスペースを徘徊して、他メンバーの書き込みに反応する形で出す etc

# 探索のモニタリング
- 探索を始める腰が上がらない?だとしたら何が原因?原因にはどう対処すればいい?
- 探索中に割り込みは来る?来るとしたらなぜ来る?来ないようにするには何をしたらいい?
- 煮詰まっていることはある?あるとしたら何が原因?原因はどうやって潰したらいい?

# 探索時間の分析
- 探索する時間帯に傾向はある?あるとしたら、なぜそのような傾向になる?
- その時間帯はあなたにとって適切ですか?変えた方が良かったりしますか?
- 探索する時間帯を固定することに賛成ですか?反対ですか?その理由は?

# 探索サマリー
- 探索サマリーはどのようにつくっていきますか?
    - どんな概念をつくりますか?
    - それら概念をどのように構造化しますか?
    - それら概念とその構造化に至った文脈はどのように整理しますか?
- その探索サマリーが想定するネクストアクションは何ですか?
    - アボート(中止)ですか?それはなぜですか?
    - リトライ(再探索)ですか?それはなぜですか?
    - コミット(探索を終えたので正式な活動に移行)ですか?またどのような活動をしますか?

まとめ