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人事部や産業医への相談

📒まとめ

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メリデメ

一言で言えば、一時的に楽はできますが、推奨はしないです。

メリット

デメリット

🐰私見

正直頼りにならない

そもそも人事部や産業医に「ASD を上手く扱う知見」があるとしたら、会社自体にそのような制度があるでしょう。その場合、そもそも人事部や産業医に相談する展開にはならないはずです。

まず 人事部は会社の文化と能力を最も色濃く反映した部門 であり、その実態は制度として表れます。よほど未成熟な組織でもない限り、人事権とプライバシーを握る人達が好き勝手に動くことなどできません。人事部は構造的に制度の奴隷であり、最も会社と一心同体的で融通が利かない存在の一つです。つまり、表れていないのであれば、その程度だということです。

また、産業医は産業医で会社の人間であり、自身の契約や信用にも関わるため会社の意向に抗うことはできません。つまり、すでに上司や周囲のメンバーなどが会社の制度を踏まえて、それでも上手くいかないという場合、産業医が加わったところで事態は改善しません。むしろ、ASD部下を逆撫でするだけでしょう。

カウンセリングは求めていない

ASD に限らず、発達障害の文脈ではよくカウンセリングが推奨されます。たとえば産業医も十中八九進めてくると思います。

私は異を唱えたいです。何度も言うように、ASD部下が求めているのは特殊解――自分向けの個別対応であり、争点はどれだけそれをしてもらえるかどうかだけです。

カウンセリングは精神的不調など症状の予防や軽減のために行うものと理解していますが、ASDにはそもそも症状はありません。何なら至って健康です。ただ、配慮されてないせいで上手くいかないのだから配慮をしてください、と希望しているだけです。配慮するかどうかなのです。どこまで配慮するかの議論、つまり対話が肝心なのです。

頼ってもいい場合

では、どんな場合なら人事部や産業医(との面談)に頼った方がいいでしょうか。四点あると思います。

1: については、ASD部下がそれら機会を知らないか、知っていても本人だけではアクセスできない場合があるので、そのような機会があることとセッティングの可否を尋ねましょう。その上で、イエスなのであればセッティングします。もしノーであるなら、上述のとおり効果は薄いか、かえって状況も悪化するでしょう。

2: については、明らかに見てわかる場合もありますが、わかりづらいこともあります。現実的には勤務の態度や意思を言動ベースで確認して、明らかにひどいので対処が必要だ → 面談しよう、と持ち込むのが王道でしょう。たとえばそれまで皆勤だったのに三日に一回くらい遅刻するようになったりやたら離席が増えたり、温厚だったのに攻撃的な言動が見られ始めたりしたら怪しいです。

3: は難しい話題です。一つ例を出します。

この例を表面的にとらえると勤務態度が悪いとか、就労意思に欠けているとみられるかもしれませんが、私はそうは思いません。ASD であることはすでに伝えていますし、チームはともかく上司と上位上司については 1on1 を含めて対話もしています。にもかかわらず、合理的配慮を行われず、既存の規範に押し込められました。一応、10~16 時はいただいていますが、後に問題行動扱いされているように、対話ではなく放棄に基づくものです。別に責めてはいません。単に未熟なだけです(だからこのドキュメントを書いています)。

それに態度や意思でいうなら、こうして言語化してお伝えしている分、むしろ良好ではないでしょうか。この提案の過程で、私は研修自体のあり方や課題も整理しています。そもそも正解がなく、新しい試みで、皆で模索していこうというものです。私は模範とさえ言えますし、実際研修資料作成の文脈でも、既存資料の流用で雑に済ませようとせず新しくつくりなおして、かつ最新の動向も盛り込んだのは私だけです。

いわば、この例は「合理的配慮ができていない」だけであり、それを私のせいにした上で、逃げるかのように人事部と産業医に頼っているわけです。態度が悪いのはどちらなのか。意思がないとはどちらなのか。

……というわけで、3: については、このとおり判断が難しいと思います。おそらく判断を迫られる上司のあなた側に、合理的配慮の発想の知見がないので、この例のように ASD 部下側を一方的に悪者にしがちです。

最後に 4: については、組織次第だと思いますが、一般的には「産業医を面談をした社員」は、制度または文化のレベルで「配慮が必要な社員」の枠に入ると思います。ASD 部下の配慮を勝ち取りたい場合に有用な武器になりえます。しかし、同時に、マイナスのレッテルがつくようなものですから、ASD 部下本人が納得しないかもしれません。

逃げない

安易に人事部や産業医に逃げることは、逃げに等しいです。

ASD部下の問題は、言ってしまえば「クセの強いメンバーをどうするか」問題です。現場や部門で解決するものであって、安易に面談などをセッティングしてしまうのは、単に現実逃避と責任転嫁をしているだけです。それで消えてくれればいいですが、消えません。このドキュメントで散々述べていますが、ASD はこだわりが強く、配慮を望む姿勢もおそらく緩めないでしょう。

逃げずに対処してください。わからないのなら、このドキュメントも使ってもいいですし、もちろん個別に調べたりしてもいいです、勉強してください。

あるいは、ASD部下を巻き込まずに、個人的に人事部や産業医に相談する のはアリでしょう。同じメンバーや部門の人間とは相談しづらいでしょうし、全うな会社員であれば会社の話を友人や家族含め部外者の人にすることもしないはずで、ある種孤立してしまっています。少し外の、しかし同じ会社の人間と相談できるだけでも発見はあるのです。おそらく人事部も産業医も、他の発達障害者の社員を対応した経験を持っているので、(もちろん個人情報もあって深堀りはできませんが)参考になるアドバイスや事例を入手できる可能性があります。そうでなくとも誰かに話せば純粋に気持ちが楽になります。

さらに言うなら、対処するための時間をちゃんとつくってください。「無能な部下ひとりごときのために」などと時間を費やそうとしないのはあるあるですが、それでは進展しません。残念ですが、ASD部下を抱えた時点で負けなのです。ならば被害を最小化する事を考えましょう。もちろん、ASD部下の強みを生かせれば、社員ひとり分以上の働きも期待できます。そこはまさに、マネージャーとしてのあなたの力の見せ所なのです。