パターン:ベストエフォート・タイムボックス
サマリー
- 仕事やタスクの時間枠を設定し、その枠を過ぎたらそこでその日はおしまいにする
関連
👉ノー残業パターン
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背景とアプローチ
- 仕事はしばしば「終わるまで帰れません」状態となり、したがって必要に応じた残業が発生する
- 最もわかりやすい議論が「毎日定時間だけ働く」「残業はしません」であるが、これは通常許されない
- 他にも 30 分予定だった会議が 35 分、40分、それ以上続く場合もよくある
- ASD 部下は、このような「必要に応じた延長」に弱い
- ただでさえ燃費が悪くて疲弊が激しい上、(仕事による拘束が)自身が持つこだわりとも衝突するため、本領を発揮できないところか自分を死守するために上司やチームと戦うことになる
- 👉️時間枠を過ぎたら帰ってもいいですよ、という発想に倒す
アプローチ詳細
- タイムボックスとは時間枠の意
- 元ネタはタイムボックスと呼ばれる手法
- 仕事の裁量を持つ者が無限に仕事を続けるのを防ぐために、「仕事をする時間帯」を定めるもの
- たとえば 9:00~17:00 と設定した場合、9時以前と17時以降は一切仕事しない(即座に仕事場を立ち去り、道具もすべて片付け、連絡手段も一切見ないレベルで徹底)
- これを応用し、ASD 部下向けに適用する
- 設定した時間枠を過ぎたら、もう帰ってもいいよ、とする
- 🐰これは時間枠内でベストエフォートするとも言えます。ベストエフォート・タイムボックスと名付けました
- ボックスの粒度
- 小:特定の予定に対して設定する。定例会議に対して 30 分を設定する等
- 中:一日の勤務時間に対して設定する。9:00~17:00 に設定する等
- 大:週スパンに対して設定する。月~金に設定する等
- メリット
- ASD 部下にとって:
- パフォーマンスが安定する
- 学校や研修と同様、終わりが保証されているため体力やメンタルのコントロールがしやすい → 使いすぎて荒れる事態になりにくいため
- 保証された終わりを前提とした配分が可能となり、気兼ねなく集中しやすくなるため
- マネージャーにとって:
- ASD 部下がいる時間が確定するため、マネジメントの戦略を立てやすい
- チームにとって:
- 一線を引いた、割り切った付き合いや扱いがしやすい
- 🐰感覚的にはバイトやインターンを扱うようなものです
議論
- Q: 時間枠を過ぎたら、ASD 部下はどうすればいい?帰る前の儀式や確認は要る?
- Ans: 要りませんし、むしろなくしてください
- 下手に「声かけてね」「挨拶してね」のようなルールを設けると、かえってこじれます
- ベストエフォート・タイムボックスはいわば特別扱いであり、特にチームの心象は良くないので、「そういうものだ」と割り切ってもらうためにはドライさが必要です。声掛けも挨拶もなく、時間になった瞬間に帰るのを黙って見送る(もしくは見送りすら不要)くらいを目指してください
- Q: まだ終わってない会議や作業の途中で時間枠を満了した場合、どうすればいいか?
- Ans: 構わず帰ってよしとします
- ASD 部下側が望むのならば継続しても構いませんが、即座に帰ったとしても容認してください
- できれば上司側、チーム側から「タイムボックス終わったけど帰る?」と確認を入れてください
- そうすることで「タイムボックスを使って割り切った扱いをするのだ」との表明が明確となり、ASD 部下側も行動しやすくなります。前提として、ASD 部下側もあなたやチームに対して(本当は帰りたいが)探り探りやっていますから、その探りを任せてしまうよりも、こちらから提供してしまった方が早く定着します
- Q: ベストエフォートの時間枠だなんて、何甘ったれたことを言っている。そんなんじゃ仕事になりやしない
- Ans: それでも仕事になるよう調整するのが、マネージャーであるあなたの仕事です
- もちろん、通常であれば多少は我慢してもらうべきですが、それができないか、難しい ASD だからこそ配慮してくださいと言っています。合理的配慮です。個別の配慮です
- そのためには、具体的なやり方を知らねばならず、このドキュメントではパターンという形で提供しており、このベストエフォート・タイムボックスもその一つです
- Q: 大中小、どのボックスを使えばいい?
- Ans: 正解はありませんが、複数使うこともよくあります
- 基本的に大中小、すべて設定することをおすすめします
- 最も重要なのは中(一日の勤務時間)です。ノー残業パターンもご覧ください
- 次に重要なのが小(打ち合わせその他予定)です。ASD 部下は、たとえ 1 分であっても枠を超えることを嫌うことがあります。一回超えたくらいですぐ何か起きることはないでしょうが、溜めれば溜めるほど爆発リスクが高まり、ある日長文ポエムや唐突な抗議を受けることになるでしょう
- 意外と重要なのが大(週の勤務日)の観点で、これは、≒休日出勤を免除する、と考えていいです。仕事なので休出するケースはあると思いますが、ただでさえ慌ただしいときに ASD 部下と休出について揉めても良いことはありません。だったら、最初から休出はしなくてもいいと決めておくことで、そのリスクを潰しておいた方が懸命です
- 実際、ASD 部下はただでさえ苦しい社会生活での疲弊の帳尻をあわせるために、休日は独自の(こだわりを持った)過ごし方を組んでいることが多いと思います。ここがあるからこそ発散されて、翌週も機能できます。休出は、いわばこの発散を没収して、さらに働かせるようなものです。ASD マネジメントを学んだあなたなら、これがいかにハイリスクであるかがおわかりいただけるでしょう
- ASD 部下という要員を休出させなければならないような事態がそもそも詰んでいます。そうならないように日頃から立ち回るのがマネージャーであるあなたの仕事のはずです