パターン:インターナル・アウトサイダー
サマリー
- ASD 部下は、特定のチームメンバーとして従事させるよりも、より広い範囲に影響を与えるポジションとして放し飼いするのが良い
- 内部的な部外者(Internal Outsider)パターン
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背景とアプローチ
- 現代はチームの時代であり、知識やスキルよりもチームへの適応が最重視されるが、まさに ASD が苦手とする部分でもある
- よくある対応として、チームのマッチングで捉える――チームAで合わなかったら別のチームを探す形がとられがちだが、本質が見えていない。そもそもチームメンバーとして扱おうとすること自体、分が悪い
- 👉️便宜上所属はさせるが、チームの枠にとらわれない活動をさせる
アプローチ詳細
- ASD 部下は 社内インフルエンサー に向いていることが多い
- 社内インフルエンサーとは:
- 造語だが、インフルエンサーの社内版
- 全社全員や事業部全員など、広い対象を相手にしたポジションのこと
- 直接お金を稼ぐのではなく、そうする人達に影響を与えるのが仕事
- 具体的にはテキスト音声動画を継続的に発信する、同期的・非同期的に質疑応答をする、もらった依頼に応える、登壇やライブ配信を行う等
- わかりやすいのは、具体的なテーマやコンセプトを一つまたは複数掲げて、その伝道師(エバンジェリスト)として立ち回ること
- 社内インフルエンサーの新規性(*2):
- バウンダリー・スパナーは部門間を橋渡しするが、社内インフルエンサーは全社全員を相手に発信・Q&Aを行う
- エバンジェリストは社外に向いているが、社内インフルエンサーは社内に向いている
- ERGや社内広報は役割が散発的かつボランティア的だが、社内インフルエンサーは同じ者が専任する
- スタッフ・エンジニアは特定の PJ やチームにスポットで入って、Glue Work(見えにくい雑務)も含めて支援するが、社内インフルエンサーはプロジェクトワークやクライアントワークはしない
インターナル・アウトサイダーを成立させるために
- 1: ASD 部下の意思を確認する(以下三点すべて)
- インターナル・アウトサイダーとしてやっていけそうかの自認
- インターナル・アウトサイダーをやりたいという意思
- 全社員にカミングアウトしてもいいという意思
- 2: 会社としての実現性を確認する(以下三点すべて)
- ASD をカミングアウトした一般社員によるインフルエンサー活動の許可、あるいは少なくとも禁止されていないこと
- インターナル・アウトサイダーを迎え入れてくれる所属先(or あなた自身でも構いません)の確保
- インフルエンサー活動を行えるだけのインフラがすでに存在すること or 調達できていること
- 🐰端的に言えば 「社員全員が誰でも読める場所」に「一般社員」が書き込むことができる ← これができるかどうか です
従業員数千以上の大企業であれば、(よほど特殊か政治的でもない限りは)可能なはずです。主な争点は二つで、ASD 部下自身の能力と意思と、これを実際に飼ってくれる所属先部門の存在です。特に後者が難しいでしょう。社員とはいえ、赤の他人の ASD をいきなりインターナル・アウトサイダーとして迎え入れるのは難しいからです。ですので、実は今現在 ASD 部下を抱えているあなた自身が行うのが最も近道だったりします。
公式と非公式
インターナル・アウトサイダーの立場には「公式」と「非公式」があります。
- 公式
- 会社として正式にポジションを用意する
- おそらく「ダイバーシティ推進室」のような部門に所属することになる
- 当然ながら、公式として認めてもらうためのアピールや調整が必要であり高難度
- 非公式
- 公式を待たずに、所属部門やグループやチームの責任で実施する
- ある程度オープンな風土のある会社であれば、すでに全社員向けの発信を行うような社員はそれなりにいるはずで、その枠に加えるイメージ
まずは非公式をおすすめします。大企業であれば ASD 部下一人の管理は、所属部門以下のレベルで完結できるはずで、その単位で許容すればいいだけだからです。言うまでもないでしょうが、下手に公式を狙おうとしたところで、そうかんたんに動くはずもないですし、むしろ関係者が下手に増えて問題が煩雑化します。結果、リスクを恐れて中止に倒れます。
公式を端的に狙える唯一の道は、ダイバーシティ推進を担っている部門のトップ(あるいは同等の権力者)から見い出されること ですが、これには ASD 部下またはあなたがそのような人との接点を持っている必要があります。レアケースでしょう。
ですので、非公式で活動してしまって実績やプレゼンス(存在感)をつくってしまう方が早いのです。社内インフルエンサーはブルーオーシャンであり、その程度はすぐにつくれます。だからといって、誰もがかんたんに行えることではありません。ASD だからこそです。
🐰例
仮に私がインターナル・アウトサイダーになるとしたら、を少し考えてみます。
ネタは複数ありますが、「ASD 当事者としてニューロ・ダイバーシティを啓蒙する」を掲げましょう。
- ビジョン
- ビジョン詳細
- 多様性の問題の本質は、働き方と過ごし方のミスマッチ――マジョリティのそれらに合わせられない人達がいるということ
- 合わせるためには、今現在の「単一」のそれらにマイノリティ達が合わせる、ではダメで、マイノリティ向けの配慮を別途行わねばならない
- 配慮するためには相応の知識やスキルが必要である。すなわち、働き方や過ごし方そのものについて。また、必要に応じて自分たちでつくったり変えたりすること
- これは一種のエンジニアリングであり、働き方や過ごし方といった概念的なものを扱うエンジニアリングと言える
- つまり、配慮の実現に必要な働き方・過ごし方を実装する 必要がある
- 私について
- 万以上の従業員を持つ大企業にて 10 年以上勤務している
- ASD 当事者として、マイノリティの視座を持っている
- エンジニアとして培ってきた調査、思考、言語化の力を持っている
- このようなドキュメントを書いたり、「インターナル・アウトサイダー」なる概念をつくって、こうして説明するくらいは造作もない
- しかし私は 知識やスキルはあるのに、働き方や過ごし方が合わないせいで戦力になれなかった経験がたくさんある。その根底として、多様性の無さ――もっと言えば、これら概念を扱うリテラシーの無さがある。だからこそ開拓しなければならないと痛感している
- こんな私だからこそ、多様性の実装に向けてゼロイチをつくれると考える
- 社内インフルエンサーとして、全社員に向けて発信できる
- ブログも書くし、資料もつくるし、配信もする
- フォームでもコメント欄でもオフィスアワーでもライブ配信でも、何でもフィードバックを受け付けるし、すべて応える
- 個別のご依頼があれば応える(が、可能であればニューロ・ダイバーシティの啓蒙を重視したい)
- まずは社内でニューロ・ダイバーシティを当たり前にする
- その先は考えていないし、会社次第だが、個人的には「ニューロ・ダイバーシティ・パイオニア」としてアピールできたらいいのではないかと考えている
- ニューロ・ダイバーシティはブルーオーシャンであり、覇権を取れるチャンスがある
- そうでなくとも、単にこれまで十分配慮されずローパフォーマーだったニューロ達が、配慮されてハイパフォーマーになるだけでも価値がある
- Next is Neuro
- Neuro Era(ニューロの時代)は、決して不可能ではないし、むしろ妥当であるとさえ私は思っている
- この旅路にお付き合いいただけないだろうか?
いかがでしょうか。
実は本気です。このドキュメントを書いたのも、私が ASD 当事者として本格的に活動していくための準備であり、アピールでもあります。というわけで、もしその気のある方がいらっしゃれば、ぜひお声がけください。お待ちしております。
議論
- Q: インターナル・アウトサイダーが相手にする人数規模の想定は?
- Ans: 最低でも数百人以上ですし、数万以上も想定します
- このようなポジションに社員一人分の給料を払う必要があるので、おそらく大企業向けですが、出せるのであれば数百人以下の企業でも可能です
- とはいえ、このような広域な影響行使は広く浅く刺すものなので、数百以下の規模だと効果を実感できないかもしれません
- それでも、下手にチームメンバーに押し込んでチーム全体にデバフ(弱体化)をつけちゃうくらいなら試す価値はあると思います
- Q: 定量的に効果測定したい
- Ans: あまり推奨しませんが、できないことはないです
- そもそも直接お金を稼ぐためのチームプレイが難しい ASD 部下のための措置ですので、なるべく定量的な測定には頼らずに済ませたいです。というのも、インターナル・アウトサイダーは社内インフルエンサーであり、直接利益を出すものではなく、定量的な測定とは相性が悪いからです(通常この生き方が許されるのは唯一無比レベルの権威を持つ有名な実力者のみ)
- どうしても測りたい場合は、アンケートが良いでしょう。たとえば全社員に対して「(ASD部下名)に社員一人分の給料を支払う価値はあると思うか?」を尋ねて、ある程度肯定が得られるならばアリとみなします。結果が芳しくなかった場合でも、では次はどうすれば価値を高められるかを考えていけます
- 計測の理想を言えば、社員に言語化させずに、社員の 素の行動 を測れるといいです。この考え方はリーンスタートアップでも使われます(*1)。単純な例として、ブログその他 CMS のアクセス数(ユニークなカウントが良い)があります。発信コンテンツは能動的に見に来ないとアクセスとカウントされないため、アクセス数がそれなりにあるとか継続的にあるという場合は、それ自体がそれなりのエンゲージメントを示しており影響を与えていると言えます。リアルで会うイベントばかり重視されがちですが、数字は嘘をつきません
参考
- 1 リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす, 2012, エリック リース (著), 井口 耕二 (翻訳), 伊藤 穣一(MITメディアラボ所長) (解説) (その他)
- 2 ChatGPT 5 Pro「インターナル・アウトサイダーの提案」