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仕事の種類と制約を見極める

📒まとめ

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仕事の種類と制約を見極める

ASD 部下はどんな仕事に向いているのか。あるいは向いていないのか――。

これを見極めるためのフレームワークを提供します。

1: 仕事の種類

探索、作業、反応に区別します。

これらは「やり方」「過ごし方」「正解」の定まり具合であり、以下の対応となっています。

  探索 作業 反応
やり方 定まっていない 定まっている 定まっていない(が定まっていることも多い)
過ごし方 定まっていない 定まっていない(が定まっていることも多い) 定まっている
正解 定まっていない 定まっている 定まっている

探索はやり方も過ごし方も正解も、すべてが定まっていません。進捗や成果物の確認タイミングは定まることがありますが、これが多い場合は探索ではなく「作業」と考えてください。あるいは、政治的に「上手くやっている体裁」が重要であり(上手くやっていることを示す機会の継続的演出という意味で)「反応」かもしれません。参考までに、連載のような「定期的に締切がある」もの、特に週単位で短いものは作業です。

作業は、少なくともやり方と正解が定まっています。どちらも明示的であるとは限りませんが、評価する側、顧客、市場などが事実上定めていることが多いです。たとえば王道、規範、ブーム、現在の勢力やパワーバランス(に逆らわずに動く、つまり長いものに巻かれる)といったものも含みます。過ごし方については、定まらないこともありますが、定まる場合が多いです。フルリモート・フルフレックスを自由に活用できず、チームで活動場所や活動時間を合わせないといけない場合は、もう定まっていると考えてください。「定まっていない」のラインは、勤務時間全体の 75% 以上 が定まっていないことです。出社で言えば週1未満ですね。

反応は、すべてが定まっています。典型的な打ち合わせやカジュアルな雑談、接客のようにフロアで拘束されるものから、開始と終了が明確に定まった公式イベントまで、様々な営みを含みます。わかりづらいのが「カジュアルな雑談」ですが、いくら雑談であっても好き勝手に一方的にやめることはできない(できはするが信頼関係を損なう)という意味で、事実上定まっています。

いずれにせよ、仕事を内容や技能ではなく、やり方や過ごし方や正解といった要素で分けている ことに注目してください。ASD にとってクリティカルなもので分けています。これらが定型発達と合わず、合わせることもできないからこそ ASD の困難が生じています。仮に人並以上の経験や知識やスキルや体力やメンタルがあったとしても、ここが合わなければ戦力外とみなされてしまいます。だからこそ、この観点での見極めが重要です。ここをマッチングさせない限り、ASD が戦力になることはありません。

2: 制約

仕事には様々な制約がつきます。ゲームでたとえるなら縛りプレイ、あるいは追加ミッションといったところです。これがあるのとないのとでは難易度がずいぶん変わります。

制約には次の四つが存在します。他にもありますが、このドキュメントではこの四つを扱います。

仕事では通常、少なからず制約が発生するものであり、これらを取っ払うのは難しいでしょう。ここで制約を整理した目的は、制約に関する解像度を上げることです。たとえば協調とはどういうことか、どういう段階があるかといったことが言語化されています。この解像度でとらえておくと、協調lv2でも難しそうだからlv1に落とそうか、といった具体的な戦略を立てやすくなります。

🐰余談1:言語化について

この四つの制約は(そして上述した種類も)あくまで筆者による整理であり、絶対的な解ではありません。あくまでもフレームワークにすぎません。

しかし、こうして抽象的にわかりやすく言語化して、分類することで、具体的な対処を立てやすくなります。理想を言えば、あなたなりの、あなたのチームなりの用語と体系を確立することですが、いきなりは難しいので、このドキュメントが紹介するものを参考にしてください。

🐰余談2:言語化の営み

ASDは「察する」ための器官がないようなものなので、言語で表現するしかありません。

言語による定義が得意なのが IT エンジニアであり、たとえばドメイン駆動開発(*1)という開発手法では、顧客と一緒に、顧客のビジネスの本質を言語化します。用語集(ユビキタス言語と呼ぶ)をつくったりもします。IT とはプログラミングであり、プログラミングとはプログラムコードを用いた言語化と構造化にすぎません。そして言語化の対象は、まさに「察する」で成立しているものなので、まずはそれを紐解いて言語化していかなければならないわけです。

と書くと、なんだか難しそうに見えますが、言語化するために顧客と早期から継続的に対話する、との営みは、現代のホワイトワーカーなら(よほど作業の比重が重い役割でないなら)していると思いますし、新規事業の文脈では耳にたこができるほど聞かされているでしょう。

このような営みを ASD部下に対しても別途行うべき なのです。このページでは、そのためのフレームワークを提供しています。

3: 見極め

仕事の種類と制約を定義したので、続いて、これらに基づいて ASD 部下をどのように見極めていくかを論じます。

といっても、さほど難解ではありません。

仕事の種類については、少なくとも一つは「できる」を探したいですし、「苦手」はやらせないようにしたい。できれば「得意」を任せたいです。

よくある声が「仕事を選べる立場じゃないでしょ」「今ある仕事が唯一なんだからこれをやるしかないでしょ」といったものですが、その 今ある仕事にどのように取り組むかは調整できますし、調整できねば ASD 部下のマネジメントはおそらくできません。だからこそ、仕事の種類をやり方、過ごし方、正解で分けています。

制約については、基本的には少ないほどいいですが、少なすぎると逆に動けない場合もあります。バランスが大事ですが、まずは少なくした方がいいでしょう。ASD だから……と不安になって、マイクロマネジメントしたがるのはあるあるですが、散々述べたとおりコミュニケーション、こだわりの強さ、コスパの悪さと困難三銃士を揃えたASDを枠におさめること自体がハードモードなのです。合理的配慮から逃げてはいけません。制約をできるだけ取っ払っていき、それでダメなら少しずつ足していって、必要最小限の制約 で済むようにします。

参考