パターン:ステルス・プレゼンス
サマリー
- ASD 部下のプレゼンス(存在感)は可能な限り、見えないようにする
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背景とアプローチ
- 私たちは以下の性質を持つ
- 1: 非言語情報に重きを置き、常に相手から、あるいは場から摂取している
- 2: 好き嫌いや親密の概念があり、主に 1 により判断したり満たしたりする
- 3: 平等指向が強く、扱いの異なるメンバーがいると不満が生じる。少なくとも不快感が生じる
- 一方で ASD 部下は 1 と 2 を扱う能力が特性上乏しく、合理的配慮を必要とするが、それが上司とメンバーの 3 を刺激する
- 👉そもそもプレゼンスをなるべく見せないようにする
アプローチ詳細
- プレゼンスとは:
- 存在感や勤務状態(オンライン/離席中/会議中など)を指す言葉
- ここでは「当人の “過ごし方” の様子」を指す
- 例1: 鬼のような形相でディスプレイを睨み、手元のキーボードで激しく入力し続けている
- 例2: 難しい顔をして考え込んでいる
- 例3: 私有のスマホでソシャゲをしている
- プレゼンスの性質:
- 仕事ではプレゼンスの一体感も要求される
- 要求されているプレゼンスから外れると「浮く」
- 浮いた状態はそれだけで不快であり、ある程度続くと不満となって衝突に発展する。またマネージャーや先輩など立場が強い場合は注意や叱責を行うことがある
- 部下側が従わなかった場合、叱る側は体裁を保てないため極めて不愉快になる
- 🐰たとえば勤務中、雑談をせずに個人作業か打ち合わせをするような職場(必要なことだけを淡々とやるドライな職場)だと、誰かと雑談している人が浮きます。逆に雑談が多い職場だと、雑談せずに黙々ひとりでパソコンと向き合っているような人が浮きます。あるいは打ち合わせ一つでも、ヒエラルキーが強くて上位者から振られて喋るような組織で「フランクに発言する者」は浮きますし、逆に立場関係なしにフランクに発言するのが当たり前の組織で「発言権を待つような受け身な者」こそが浮きます
- ステルス・プレゼンスとは、プレゼンスをなるべく見せないこと
- たとえば以下にできるだけ頼らないこと:
- 打ち合わせを含む予定全般(場所や時間を拘束する事柄全般)
- 即レスの期待など、1時間以内のリアクションを要求する超短期な締切
- 一緒の空間で過ごすこと
- チャットのステータス
- パソコン操作のログを取るソフトウェア(マウスやキーボードの動きを記録するようなもの等)
- 🐰これらに頼っていると、一体感から外れている場合に不快や不満が生まれますし、そもそもASD 部下は守り続けること自体が難しいので、頼る度合いを減らすしかないということです
- 🐰また、よくあるのが、暇なマネージャーその他役職者が、暇つぶしのためにプレゼンスを見るというものです。そうしてプレゼンの浮いた人を見つけては改善しようとします。悪意を持っていじめるケースもあれば、善意 100% で行っているケースもありますが、いずれにせよ不毛なことです。ASD 部下はその対象になりやすいですが、このような事態の根本原因は「プレゼンスが見えること」なので、見えなくすればいいわけです
- チーム全体をステルスにする必要はない
- ステルスにするのは ASD 部下だけでいい
- つまり ASD 部下のプレゼンスが見えないことを、チームが許容しなければならない
- あくまでもステルス(見えないようにすること)が重要
- ❌見えるがスルーする
- ⭕見えないようにする
- 🐰見えてはいるがスルーし続けるのは不可能と感じます。一度だけ過ごすならまだしも、同じ所属やチームの一員として今後ずっと付き合っていくわけですから、どこかで糸が切れます。人間である以上、難しいのだと思います。見えないようにするべきです。
- 完全なステルスが難しくても、できるだけ情報量を減らすことも可能
- 逆に ステルスのしすぎもハラスメントに通じるため、ASD 部下本人の意思を確認する こと
何をどうステルス化するか
代表的な観点と、そのステルス化の方法を挙げる。
- 物理的な座席
- シングル隣席や隔離席にする
- 遮蔽物やパーティションなどを上手く導入して、直接見えづらくする
- 打ち合わせ
- リモート会議時、ビデオオンや常時ミュート解除などを要請しない
- 覆面、仮面、その他被り物を認めて ASD 部下の表情を隠す
- 🐰ASD 部下は表情その他様子の演出が苦手であり、基本的に 晒せば晒すほど周囲の不快感は膨れ上がっていきます。これもプレゼンスの一種であり、隠した方が良いということです。ただし、問題なく演出できるだけの実力を持つ者も少なくないでしょう。ASD 部下次第です
- (その他、このドキュメントでは打ち合わせ自体を減らすパターンを多数紹介しています)
- チャットのステータス
- ステータスを見せない設定にする
- デスクトップアプリを使わず、ブラウザ版を使う
- バーチャルオフィスツール
- 共同作業
- OJT をしない。かわりに失敗しても問題ない場(教育的・演習的な環境)を用意して行う
- 分担にする。n人で一緒にやるのではなく、ASD 部下ひとりに分担して任せ、その進捗や結果を確認する
- 移動や待機
- 団体行動をしない(待ち合わせ場所に一緒に行こうとしない)
- 待ち時間含め、一緒にいる時間をできるだけ少なくする
- 🐰たとえば ASD 部下と合流しており、目的の訪問まであと50分あるという場合、一緒に過ごして潰すのではなく、40分くらい個人行動した上で、残り10分で再集合をする方が良いということです
- そもそも移動や待機を伴う仕事をアサインしない
見ての通り、特段難しいことはしておらず、工夫次第でかなりのステルス化が可能である。
🐰アンコンシャス・バイアスとの戦い
どちらかと言えば 「こんなあからさまな仲間外れじみたことをしてもいいのだろうか、いや良いわけないよなぁ」のような罪悪感との戦い になるでしょう。これは定型発達の偏った価値観にすぎず、アンコンシャス・バイアスの一つと言えます。
重要なのはあなたの価値観ではなく、「ASD 部下本人に合った扱い方」と「組織への影響」のバランスを常に模索することです。ステルス・プレゼンスが常に正しいとは限りません。それでも、背景として述べたとおり、プレゼンスにより問題――特に ASD 部下は浮きやすくて発生しやすいので、ステルス・プレゼンスは有効となる可能性が高いのです。