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たとえば担当者が20時間かけて練り上げた企画を、30分もかけていない上司がチェックすることがあります。ただの助言ならともかく、合否を握っていたりします。

以前上司という名のお客様 「デファクト・クライアント」を紹介しましたが、ここで注目するべきは「30分しかかけてないのに」判断を下すというおかしさです。

フェア・エフォート

フェア・エフォート(Fair Effort)とは、判断を下すほど関与するなら対等な分だけ費やすべきだ、とする考え方です。

※前提として、両者ともに未経験と仮定します。いわば実力がゼロの状態からスタートします。

上記を例にすると、担当者が20時間かけたのであれば、判断を行う上司も同程度の努力をする(時間をかける)べき、となります。

アンフェアがもたらす弊害

フェア・エフォートでない状況をアンフェアといいます。

また、努力量が少ない側をノーバディ(nobody)といいます。

ここでは単純化のため、担当者と上司の二者がいて、上司が判断を行う権限を持っているがアンフェアである(上司がノーバディ)とします。

生じる弊害はただ一つで、余分なハードル(ボトルネック)が一つ増えることです。

上司の意見は参考にはなれど、判断を行う役としては不適切なはずです。少なくとも担当者より実力不足だからです。30分しかかけていない分際で、一体何がわかるというのでしょうか。なぜ20時間かけた側の成果物を評価できると思うのでしょうか。

この場合、最適解は「20時間をかけた担当者の企画で進める」ことです。担当者と上司の二人しかいなくて、担当者の方が努力して水準が高いわけですから、当然のことです。この最適解を取らないあり方は、ただの無駄、ただの障害です。

実際は偏りが懸念されますから、上司の意見も参考にするべきですが、あくまで参考にすぎません。主導権は担当者にあります。

フェア・エフォートのメリット

上記の弊害――つまりは余計なハードルをなくせることです。別の言い方をすると、最適解で進めることです。

Q&A

上述の単純化した例を用いて、よくある話題をQ&A形式で議論します。

Q: 経験豊富な上司のチェックは必須ではないのか?

Ans: 文脈にもよりますが、典型的なおごりであることが多いです。

前提として両者とも実力ゼロを仮定しました。このような状況は新規事業や組織改善といった「新しい取り組み」でよく起こります。

新しい取り組みですから、純粋に努力量の多い方が実力が高いです。ゼロからのスタートならなおさらです。立場や人生経験や業務経験は関係ありません。

Q: 上司にわかりやすく説明するべきではないか?

Ans: わかりやすく説明できるとは限りませんし、たいていはできないです。

企画内容は「本質的に複雑である」ことも多いです。仕事ですから当然です。それをわかりやすく説明すること自体がそもそも間違っています。情報量が100あるものを、5に圧縮せよといわれても、大部分が抜け落ちてしまいます。

わかりやすくするのは、顧客に見せる部分で十分です。内部で検討する者達に行う必要はありませんし、するべきではありません。複雑なものを複雑なまま扱って議論・検討を進めるべきです

Q: 上司は社内事情や人生経験に詳しいはずで、頼るべきではないか?

Ans: そのとおりですが、判断するのは違います。

すでに述べたとおり、実際に推進していくのは(この時点で)最も実力を持つ担当者本人です。ですが、上司に分がある領域も色々とありますから、その部分は頼りますし、頼るべきです。

別の言い方をすると、上司はサポーターにすぎません。強力なサポーターかもしれませんが、ノーバディであることに変わりはないので判断の権限を握ってはいけません。握った瞬間、その仕事はノーバディがハードルになります。

Q: フェア・エフォートができないなら権限委譲をせよ、ということか?

Ans: はい。

Q: ノーバディは「権限はないが助言をする」役割になればいいということか?

Ans: はい。

これはティール組織では助言プロセスと呼ばれています。助言自体をプロセスとして義務付けたりもしますが、最終的な権限・裁量を持つのは担当者です。

Q: 忙しい上司がフェア・エフォートをするのは不可能ではないか?

Ans: はい。

だからこそ権限以上が必要で、上司は「権限無き助言者」になる必要があります。

逆にフェア・エフォートがしたいのなら、それだけのリソースをきちんと捻出してください。通常、内外への調整や衝突が必要になるでしょう。そういった努力をせず、ノーバディのままで絡もうとするのは傲慢、あるいは思考停止と言われても仕方がないほどの愚行です。

特に立場を言い訳にする思考停止は、非常によくあります。

フェア・エフォート・マトリックス

ここまで見たパターンは「部下1人 + 上司1人」ですが、他にもあります。

パターン全体はマトリックス化できます。

上下関係と1対1で分ける。

と、マトリックス化しておいて何ですが、対処は単純で、以下のとおりです。

1対1であっても、複数人であっても、あるいは階層組織でもフラット組織でも関係ありません。ノーバディには権限と裁量を握らせないこと、そして一緒にやりたいならフェア・エフォートにより規定の水準まで来ること――この二点です。

更に一言で言うと、水準の揃った者だけに権限と裁量を渡す――この一点を徹底します。ノーバディはウイルスみたいなもので、一人たりとも例外を許してはなりません。

こう書くと、フェア・エフォートは過激で選民的にも聞こえますが、そのとおりです。厳しい考え方だと思います。なぜかというと、「新しい取り組み」がそもそも難しいものだからです。既存や既知の延長ですぐこなせるほど甘くはないのです。

TIPS

マトリックスにより全パターンまで拡大したところで、改めて、よくある話題や知っておくと良いコツなどを雑多に取り上げます。

エフォートの定義

フェア・エフォートでは実力水準、もっというと努力の量を揃えることを要求しますが、「努力」とは何でしょうか?

ここに解はありませんので、「かけた時間」で構いません

エフォートの量は厳密でなければならないか?

Ans: いいえ。

たとえば「20時間くらいキャッチアップしないとついていけないと思う」との基準を定めていたとします。ここに「1日ガッツリ8時間くらいかけて、わかったと思うので、もう参加していい?」という人が来たとします。

この人を受け入れるかどうかは、融通を利かせてください。不安なら「いや、あと1日かけてください」としてもいいし、大丈夫そうなら「お願いします」でもいいでしょう。

一つの目安が、すでに水準に至っている人の「生の成果物や議論」についてこれるかどうか、です。

ノーバディでも貢献する例はあるか

Ans: あります。

新規事業や組織改善に限ったことではないですが、何事にも才能というものがあり、少ない時間で、あるいは一瞬で正解を踏める人もいたりします。そのような人を仮にスーパーマンと呼ぶことにします。

スーパーマンがいるとしたら、正直その人に任せるか、頼れる部分はできるだけ頼った方が良いです。ただし、現代はVUCA 改め VUCARD の時代ですから、スーパーマンであっても勝率はそんなに高くありません。

もし連戦連勝するのだとしたら、それは仕事自体が「新しい取り組み」ではないということです。そういう場合は、そもそもフェア・エフォートを持ち出す必要はなく、従来どおりの組織体制で遂行すればいいだけです。

エフォートを経た人が無能だった場合はどうするか?

Ans: まずは一度は実行してもらいます。

一度実行してもらって、その結果を見てから考えれば済みます。

結果も見ずに活動を中断してはいけません。特に「新しい取り組み」は、既存業務に貢献できなかったあぶれ者に回ってくることも多いですから、ともすると成果を見て無能と考えがちですが、無能なのはあなたかもしれません。

既存業務とは全く別の世界ですので、既存業務で無能だからといって、新しい取り組みも無能とは限らないのです。むしろ、既存業務に染まっている方が、常識や固定観念にとらわれがちという意味で無能だったりします。

明確に無能だとわかるのは、そもそも言語化が下手すぎて何を行っているか全くわからない、といったケースに限ります。

以下は、必ずしも無能とは言えません。