パターン:もくもくモード
サマリー
- 同座しているが直接会話はしない、という過ごし方
- かわりにチャットやノートでコミュニケーションをする
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背景とアプローチ
- コミュニケーションには同座が伴う(時間と場所の両方か、少なくとも時間を拘束する)
- 同座が標準的な過ごし方だが ASD には荷が重い、一方で他のやり方では同座派が耐えられない
- 同座中は非言語情報を主にやりとりし、かつ言語情報については、素早く理解・整理した上で端的に伝えねばならないが、ASD にこの要領はない
- 一方で、「回答を喋るので 20 秒待ってください」のような待機をいちいち入れるわけにはいかない。1や2でも述べたように、待たされる側が耐えられない
- また、言語のみで非同期的にコミュニケーションすることもまた成立しづらい。たとえばこれだけで一日中、あるいは一週間を過ごすといったことは、ほぼ不可能である
- 👉そこで両者の間を取り、同座しながらも非同期的に過ごす
アプローチ詳細
- もくもくモードとは、次の状態を指す:
- もくもくモード中にコミュニケーションをするためには、言語的な手段が必須
- ≒テキストコミュニケーションを行うための、何らかのツールが必須
- もくもくモードで会議を行う場合、典型的には以下のステップを踏む
- Step1: 設営。会場 をつくる(できれば会議前が良い)
- Step2: 参加。会議参加者が会場に入り、話題やコメントを書き込む。ファシリテーション の仕方は様々
- Step3: 収束。意思決定者が、結論を書き込んでいく
- Step4: 終了。会議時間終了が近づいたら各自離脱していい。必要なら残りn分前に全員を集めて周知させる(クロージング)
- ポイントは会場、ファシリテーション、クロージングの三点
会場
もくもくモードとは 会議時間の間、全員が自由に会場内で好き勝手に話題やコメントを書く営み である。
- 「一つの部屋」として作る
- 例:
- Slack や Teams によるチャットチャンネル
- Google ドキュメント、Notion その他ノートアプリによる共同編集ノートの「一つ分のページまたはドキュメント」
- GitHub や GitLab で一つリポジトリをつくって、その Issues あるいは Discussions
- Miro による一枚のボード
- 書き込む情報は「話題」と「コメント」と「結論」に分かれる
- 話題。お題、議題、テーマなど何らかの話題を記したもの
- コメント。話題に返信したりぶらさげたりするもの
- 結論。コメントの一種で、正式な意思決定を書いたもの。おそらく意思決定者が書くことが多い
- 会場の操作には事前に全員が習熟している必要がある
- 🐰会場をスムーズに操作できないとは、普段の会議で言えば「喋るのが遅くて苦手な子供や老人」がいるようなものです。お世話や介護に時間を割く形になってしまい、(当人をスルーしない限りは)まともに会議できません。特に意思決定者がこれだと成立すらしないです。必要なら事前にトレーニングしてでも、参加者全員に習熟してもらう必要があります
- 話題をどう展開するかには二通り:
- パターン1: 事前に話題を設置しておいて、その話題についてのみ議論する
- パターン2: 事前に設置はせず、その場で出てきた話題と向き合っていく
- パターン1の場合、さらに「事前の話題以外の話題が出たらどうするか」も決めておきます。書いてもいいが積極的には扱わないのか、それともパターン2のように成り行きに任せる(つまりその新しい話題こそ盛り上がる可能性がある)」のか
ファシリテーション
会場内でどう立ち回るかというルールや管理を ファシリテーション という。
ファシリテーションは大別すると2つ:
- 過ごし方を規定する「静的ファシリテーション」
- 様子を見ながらテコ入れする「動的ファシリテーション」
静的ファシリテーション:
- 最もシンプルなのは「何もせず完全に参加者に任せる」こと
- 最も厳格なのは、以下のようにいつからいつまで何の話題について議論するかを定めるもの
- 13:00~ 準備
- 13:05~ 話題1について議論(意思決定を促すリマインドは残り3分で発動)
- 13:15~ 話題2について議論(意思決定リマインドは残り3分)
- 13:25~ 話題3について議論(意思決定リマインドは残り10分)
- 13:50~ クロージング。議論は中止して、各自話題1~3の議論内容を読み返す
- 13:55~ 終了。この会議は 13~14 時の枠であり、バッファが5分ある
動的ファシリテーション
- 促し方や方針に正解はない
- 意思決定権を持つマネージャーが行うのが推奨だが、他のメンバーが行ってもいい。少なくとも促し方や方針は周知されている必要がある
- 例:
- 「~~さん、コメントが全然出てないですが、どうしましたか」
- 「(マネージャー)さん、そろそろ話題3の意思決定のコメントを書いてください」
- 「(マネージャー)さんが意思決定を書いていってるので、皆さん改めて確認してください」
- 「話題4と話題6が全然反応がないので、みなさん何か書いてくださいねー」
- 「~~さんと~~さん、話題2で白熱しているようですが、他の議題もあるので、話題2はいったんその辺にしてください」
ファシリテーションする者(ファシリテーター)について:
- 立ち回りを促す役割を ファシリテーター と呼ぶ
- 基本的に誰かがやる(つまり人間がやる)
- 静的ファシリテーションは、事前に決めておいたものを踏襲すれば比較的かんたんである(キーパー)
- 特に時間的な静的ファシリテーションを行うものをタイムキーパーと呼ぶ
- 機械に任せることもできる
- 🐰まだ製品はありません。IT エンジニアに限られるでしょうが、自製するといいでしょう。静的ファシリテーションは、ファシリテーションのルールを記述したものを読ませてそのとおりに振る舞うプログラム(Facilitation As Code)をつくれると便利です。動的ファシリテーションについては、生成 AI を使ってリアルタイムにフィードバックさせることである程度実現できます。
クロージング
- しまりやメリハリをもたせるためにも、残り n 分で「終了のための儀式」を行うことを推奨する
- クロージングの論点は三点:
- 1: クロージングとして何を行うか。主に今回出た議論を各自読む時間 or 意思決定者によるかんたんな総括 or 雑談する時間などがある
- 2: どうやって皆にクロージングだと気づかせるか。「あと 5 分です、クロージングです」のように声を出しつつ、会場にクロージング用エリアをつくって皆集まるようにするのが鉄板。あるいは物理的にタイマーやアラームを使って鳴らしても良い
- 3: クロージング中の離席を許可するかどうか。許可する場合、クロージング=会議の終わりであり、すぐに退室してもいい。許可しない場合、全員が過ごすことを期待する。
- クロージングは無くて済むようにしたい、この状態を目指したい
- 🐰そもそもクロージングなしに、各自でもくもくやるだけで会議が成立することを目指したいのです。クロージング頼りにしてしまうと、結局ここの場で会話して議論する羽目になってしまいます。
議論
- Q: 1時間の会議があるとして、このページでは「1時間全部もくもくモードでやる」想定だが、たとえば最初30分をもくもく、残り30分を普通の会議にしてもいいか?
- Ans: 良いです
- もくもくモードはあくまでも「モード」なので、部分的に取り入れることもできますし、おそらくその方がやりやすいと思います
- Amazon の会議は15分の黙読から始まるそうですが、これは「リードオンリーのもくもくモードを15分」行っているとも言えます
- Q: 会場として使えそうなツールとして何がある?
- Ans: たとえば QWINCS は参考になるでしょう
- 使い方を工夫すれば何でも会場になりえます。このドキュメントはデジタルツールを紹介しがちですが、アナログな道具でも可能です。頭を柔らかくして考えてみてください。特に、こういうことを考えるのが得意な人が、おそらく周囲にひとりはいると思うので、ぜひ探して頼ってみてください
- Q: もくもくモード中は一切喋ってはいけないの?
- Ans: はい。クロージング中を除いて、一切喋りません
- 無闇に喋ることを許すと「喋ればいいじゃん」となって成立しないので、一言も私語を許さない厳しい授業や図書館をイメージして、一言も喋らないことを徹底してください