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ASD 部下を見極める(自律性、影響の行使、IQ、テキストコミュニケーション)

📒まとめ

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方針を見極める

マネジメント全般がそうだと思いますが、部下の数だけ解があります。それは ASD 部下も例外ではなく、一律的にこれさえやればいいというほど単純ではありません。しかし、それではとっかかりが得られないので、見極めたいタイプを四点で整理してみました。

以降では見極め方と、それぞれの場合におけるマネジメント方針を見ていきます。

1: 自律性の有無

ここで自律性とは、マネージャー側からのフォローがなくとも、各種タスクや報連相を自主的に行えることを指します。

たとえば、ある会議で次の「やること」が 5 点出た場合、このすべてを把握し、すべてに取り組んだ上で、次の会議では 5 点とも進捗を提示するということです。あるいは、合計 5 人の相手から、計 12 個のチャットメッセージが届いている場合も、そのすべてに対処する(できないならその旨を返信する)ということです。

自律性は稀少スキル

自律性は、実はマネージャーであっても持っている方が少ないです。

というのも、通常は自分の時間枠を切り売りして誰かとの打ち合わせを差し込むからです。予定は時間割のようにパンパンとなり、ひたすらそれを消化する機械として振る舞います。タスクは各打ち合わせの中で、その都度、その時間内のベストエフォートで(しかしできるだけ次に進めるよう結論を出すように)済ませます。要するに時間割の踏襲であり、物量こそ大変ではあるものの、実にかんたんな営みです。小学生でもできます。これほどかんたんな仕事もそうはありません。

また、出社して仕事している人は、おそらく席や島やフロアの雰囲気に良くも悪くも振り回されるでしょう。これは私が雰囲気リマインドと呼ぶもので、雰囲気が何をするか自ずと教えてくれるようなものです。時間割と同等か、それ以上にかんたんな営みです。

というわけで、おそらく大多数の人、特にマネージャーや上司を努める読者層の方には、自律性は縁のないスキルなのです。

自律性を持つ ASD 部下

しかし、ASD 部下は備えている場合があります。

この場合、マネジメントはできるだけ少なくしてください。自律性を備えているということは、仕事のやり方や日々の過ごし方について相応のこだわりを持っている ということでもあります。安易にいつものマネジメントに押し込めようとすると衝突します。

むしろ、できるだけ絡まずに、進捗や成果の確認とそのフィードバックを最低限だけ行うようにしたいです。これができればできるほど上手く付き合えますし、できねば衝突に頭を悩ませる時間も増えます。自律できる者をマネジメントしようとしているわけですし、ASD ゆえにこだわりは譲りませんから、衝突は火を見るより明らかです。

逆に、自律性が見込めない場合は、従来どおりマネジメントは必要でしょう。

2: 「影響の行使」が苦手かどうか

影響の行使とは、ここでは人に直接声をかけたり、ファシリテーターのいない場に参加して自発的に接触したりといったことを指します。

たとえば上司にお願いごとがある場合に、チャットで送っておくのではなく(様子を見て適切なタイミングで)直接声をかけることがこれにあたります。勤務中に上司の席に行って声を掛けるのか、席が隣なのですぐ声をかけるか、あるいはランチタイムや飲み会で一緒に過ごしている中で自然なタイミングで切り出すか、単に会議調整を発信して予定を押さえることもできます。いずれにせよ、相手のスルーを許さない形で、がしっと確保するような動きを指します。

社会人ならば当たり前に聞こえるかもしれませんが、ASD 部下はこれが苦手であることが多いと思います。なぜなら、コミュニケーション困難により、適切なタイミングで影響を与えるのが難しいからです。一方で、この困難を気にせず、というより相手の状況を気にせず、とにかく声をかけるようなアクティブな場合もあります。

仮に影響の行使が苦手な ASD を 陰キャな ASD、気にせずガンガン行う ASD を 陽キャな ASD と呼ぶことにします。

陰キャな ASD

陰キャな ASD に対しては、影響の行使をもっと行ってもらうようにマネジメントします。一番かんたんなのは「遠慮なく声かけていいから」のようなフォローですが、これは上手くいきません。運が良ければ陽キャ化しますが、逆に文脈を読まずにガンガン来るようになって問題となります。細かいテクニックはこのドキュメントも色々取り上げますが、大まかな指針としては 具体的な手段や場や時間を指示 してください。

以下はチャットにおける例ですが、いくつか挙げます。特定のアクションを指定して、それを使わせる形です。

対面コミュニケーションの場合も変わりません。いくつか例を挙げます。予備動作をさせたり、状態として示したりすることで影響の行使をしやすくするという路線です。

いずれにせよ、このような指示を一つずつつくっていくことで対応します。「そんなもの状況を見て臨機応変にやれよ」とはごもっともですが、ASD にはそれが難しいことが多いのです。

陽キャな ASD

逆に陽キャな ASD に対しては、影響の行使を抑えてもらう必要があります。

考え方としては陰キャな ASD のときと同様、具体的な指示をつくります。この場所では一切喋らないで、この時間帯はここには何も書き込まないで、~~さんに直接話しかけるのは一切しないで、といったことです。

指示はできるだけ具体的に、しかし、できるだけ少なく済ませたいです。極端ですが、20 個もの指示があったところで、守り切るのは難しいでしょう。

陰キャと陽キャの行き来

陰キャな ASD のマネジメントの目的は、影響の行使の回数を増やす ことです。一日一回も自分から声をかけなかった ASD 部下が、一回くらいはかけてくれるようになれば大きな一歩ですし、もちろん必要に応じてかけられるようになれば理想です。

逆に 陽キャな ASD のマネジメントの目的は、悪い影響の行使の回数を減らす ことです。一日五回くらい余計な発言やコメントで悪影響を与えていた ASD 部下 が、一日二回くらいになっただけでも、チームとしてはかなり荷が軽くなるでしょう。

いずれにせよ定量的に測定できますので、どういう指示を採用すれば回数を増減できるのかを模索してください。また、陰キャだった ASD が陽キャになったり、陽キャだった ASD が陰キャになる、といったように タイプは行き来することが多い ので、両方の対応がおそらく要るとの心づもりでいてください。

3: IQ の高さ

IQ が高い場合、ASD 部下であっても十分な模倣を持続的に行えるため問題ありません。むしろ、知識や技術をもって正論で殴りつけてくる形の立ち回りをしてくるかもしれませんが、それは単に「性格が悪い奴」「嫌な奴」と同じであり、ASD とは無関係ですので、ここでは扱いません。

問題は IQ が高くない場合です。このドキュメントで強調してきたとおり、ASD は認知機能の性能が乏しいと言えますので、IQ つまりは知能が人並であっても、総合的には人並以下なのです。業務や情報の量と密度は、標準的な戦力より減らさねばならないと思います。努力や経験の問題ではなく、根本的なスペックの差による、越えられない壁というものがあるのです。

特に重要なのが 密度 です。たとえば標準的な戦力なら一日で終われるタスクであっても、その遂行には実作業、渉外、同僚その他関係者とのカジュアルな会話など、多岐な才能が求められます。ASD のスペックでは、全力を出しても及べないことがあります。それこそ、大手チェーン店のアルバイトスタッフであっても「結局マスターできなかった」になる可能性も十分あります。そんな ASD に「一日で終わらせなさい」「終わるまで帰れません」としてしまっては、あまりに酷です。指導する側も疲弊しますし、いつまでたってもなぜか上達しないので、苛立ちも募ります。

スペックの問題なので、どうしようもありません。唯一の解は、標準的な「一日で終われるタスク」の遂行を諦めることです。その 7 割くらいまでやらせて、残り 3 割は巻き取るとか、別のタスクを選任させて貢献させるかなど、工夫しなければなりません。しない限り、限界スペックの問題が一生つきまといます。可能なら「1.5日で終わらせたらいいよ」のように伸ばすこともできますが、日単位の区切りをまたぐは通常やりづらいでしょうから、負荷を減らした方が上手くいきます。

その他 IQ に関する詳しい話は、以下をご覧ください。

4: テキストコミュニケーションの可否

テキストコミュニケーションのマトリックス

「ASD 部下」と「上司」のそれぞれが可なのか否なのか次第で 4 パターンに分かれます。

  上司が否❌ 上司が可⭕
部下が否❌ 1 2
部下が可⭕ 3 4

次に、テキストコミュニケーションが可であるとは、ここでは 一日中一言も喋らずテキストのみで過ごせる ことを意味します。特に数分以上会話したい場合でも、対面会議またはリモート会議をせず、何らかの集まりで捕まえて話を振るのでもなく、テキストのやりとりだけで済ませるということです。

以上を踏まえて、各パターンごとに推奨する対応を整理します。

解説

優先順位としては、まずはできるだけテキストコミュニケーションに寄せてください。どちらかが使えない場合でも、使えるように練習してください。数ヶ月以上一緒に過ごすのであれば、覚えた方がお互いに楽です。

次にテキストだけで済まない場合は、3: で示したように「定期開催」と「当日の割り込みの回避」を意識したいです。この二点は最低限の条件にすぎず、実際は開始時間、会議の長さ、回数、参加人数など多岐に渡るパラメーターがあります。 ASD 部下が苦手とするパターンをいかに回避できるか にかかっています。ここを無視して、あなたやあなたのチームのやり方をそのまま押し付けると、おそらく衝突します。

🐰テキストコミュニケーションは超重要

打ち合わせなど「リアルタイムな会話」は、それ自体が(ASD にとっては)戦いのようなものです。定型発達向けに言えば、フォーマルで失敗もしづらいような対外的な登壇や商談のようなものだと思ってください。打ち合わせ一つ一つにそのレベルの負荷がかかっているのです。無論、こんな過ごし方が続くはずもありません。というわけで、戦いの回数は少ないに越したことはなく、その意味で、できるだけテキストコミュニケーションに寄せることが 非常に 重要となります。

テキストコミュニケーションを使いこなせない場合、ASD 部下を上手く活用することはほぼ不可能でしょう。リアルタイムな会話に必要なスペックがそもそも足りないのが ASD ですし、だからといってスペック不足を丁寧に待つことも難しい……。

たとえるなら、信号が青になっても進まないようなものです。

これは秒数の問題でもないし、「まあ融通利かせて待ってあげるよ」というほどかんたんでもありません。無理です。 ASD 部下が若い女性で、上司が男性で、彼女を気に入っている、何ならそういう関係があるというようなエグイ状況でもない限り、まず無理でしょう。だからこそ人は、言語であらわせないほど複雑な共通規範をつくってそれに従うハイコンテクストか、とにかくはっきりと言葉にして何度でも明示的に伝えることで殴り合うローコンテキストのいずれかの文化様式をつくっています。スペックの異なる異分子を許容できるほど、人間は強くはないのです――と、異分子側として、色んな組織やコミュニティを渡り歩いてきた私だからこそ断言したいです。無理です。

そういうわけで、リアムタイムな会話自体を避けた、別のコミュニケーションの手段や発想が必要となるのです。現時点で最も使いやすいのがテキストコミュニケーションです。Slack や Teams などビジネスチャットをイメージするかもしれませんが、他にもあります。このドキュメントでも言及します(QWINCS)。