パターン:ウォーターフォールよりもアジャイル
サマリー
- ASD 部下はウォーターフォール(計画至上主義)よりもアジャイル(スプリント単位のベストエフォート)が適する
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背景とアプローチ
- ウォーターフォールとアジャイルはどちらもソフトウェア開発用語だが、ビジネス一般に当てはめられるスタイルとして定義することも可能
- ウォーターフォールは計画至上主義。計画をつくり、そのとおりに動くことを目指す。管理はしやすいし、仕事もわかりやすいが、融通が利きにくく管理のための仕事が増える
- アジャイル(*1)はスプリント単位のベストエフォート。スプリント(1~3週間などの単位)を定義し、スプリントごとに何をやるか決めてベストエフォートし、スプリント間で振り返りをして次何するかを都度考えて軌道修正していく。融通が利きやすく管理に忙殺されないが、管理せずに動ける自律的人材の確保・教育と中長期的な方向性の整合が難しい
- 🐰一つの目安として、WEP(Powerpoint、Word、Excel)を使う仕事はウォーターフォールである可能性が極めて高いです。というのも、ウォーターフォールに必要な計画――特に階層的な構造や煩雑なスケジュールを表現するのに、これら高級なツールが必要だからです。逆にアジャイルだと「メモ」程度の資料で進めていけますし、いけねばなりません
- ASD 部下とウォーターフォールは相性が悪い
- ウォーターフォールの本質は保証(ギャランティ)であり、たとえると計画という名の契約を死んでも守るもの
- しかし、仕事や組織の複雑な機微をすべて言語化して計画その他手順に落とすことは到底不可能であり、以下が要求される:
- 暗黙的な情報を読むこと
- 計画を守りつつも、臨機応変に対応していくこと(計画によって縛られた臨機応変)
- どちらも ASD 部下にとって困難なものである
- 👉️ギャランティではなくベストエフォートに頼る
アプローチ詳細
- スプリントベースのベストエフォートのフロー:
- 1: スプリントを決める(たとえば1週間)
- 2: アジャイルを回す期間を決める(たとえば1ヶ月)
- 3: 以下を回す
- 3-1: スプリント開始時、このスプリントでは何をやるかを決める(or 前回振り返りで考えたことをベースにする)
- 3-2: 決めたことを参考に、ベストエフォートで実施。進捗は見える化し、随時相談できるようにする
- 3-3: スプリントが終わりに近づいたら、振り返りを行い、次スプリントで何するかを考える
- 4: 回す期間が終わりに近づいてきたら、最終調整を行う
- 🐰報告や提出など慌ただしいはずなので、時間は多めに確保したいです。わかりやすいのは最終スプリントを丸々最終調整に充てることです
- 🐰小難しく書いてますが、要は「一ヶ月で~~を行いたいんだよね。とりあえず一週間ごとに進捗を見て次の週どうするか考えていこっか」のようなやり方と同じです。通常はおそらくマネージャーが仮であっても計画をつくって、いつまでにどれをどの順番で終わらせるかも細かく敷いた上で守らせようとしますが、そうではないということです
- 部分的に適用してもいいし、現実的にはおそらくそうなる
- たとえば ASD 部下に対してのみアジャイルを適用するなど
- この場合、「ASD 部下」と「チーム」の間の翻訳が必要
- 進捗確認や報連相の塩梅
- わかりやすいのは日単位の進捗会議を行うことだが、ASD 部下には悪手
- 使えそうな確認方法は色々あるため駆使する。ASD 部下が機能停止に陥らないように、しかしマネージャーやチームとも連携できるようなバランスを模索し続ける
- 確認方法の例:
- Q&A の場を設置し、ASD 部下から来た質問に随時答える。また ASD 部下が答える用の場も必要ならつくっていい
- 分報や日報を書いてもらい、マネージャーが自分のタイミングで確認できるようにしておく。またサマリー欄をつくり、一目見て状況がわかるように書いてもらう
- あるいは逆に何でもたくさん書いてもらい、それを生成AIで解釈することも可能
- 報連相その他コミュニケーションの仕方をテンプレートで定め、テンプレートを選んで埋めるだけで行えるようにする
- どうしても進捗会議に参加してもらいたい場合は、コーラブル・ミーティング(Callable Meeting)を使う
- 最終調整
- クロージングに向けた準備や撤収を行うこと
- 正式な報告、発表、提出、その他手続きが色々あるはずで、アジャイルでも見込んでおかねばならない(でないと長時間残業や休日出勤して間に合わせる羽目になる)
- ゆとりを持ってこれを行えるようにしたく、最後のスプリントを丸々充てるのがちょうど良い
- 🐰別の言い方をすれば、これで成立するように仕事の進め方をコントロール、あるいは外部から防衛しなければなりません。おそらくマネージャーであるあなたの仕事です
- ASD 部下に、最終調整に要する各種作業をやってもらうかどうかは随時判断
- 向いてない場合は無理にやらせなくてもいいが、負担が減るのも事実なので、まずはやらせてみたい(できるようになれば儲けもの)
- 🐰ASD 部下が単独で最終調整含めて仕事を完結させることは難しいと思います。シングルゲートウェイパターンもあるとおり、通常は誰かの仲介が必須となるはずです。どうせ仲介が必要なのだから、最終調整は仲介役が引き取ってしまった方が楽だと思います
- 振り返り
- スプリントの終わりが近づいたら、振り返りを行う
- 振り返りのやり方に正解はないが、テンプレートをつくって埋めるのが良い
- 振り返り手法の例
- KPT: Keep、Problem、Try を洗い出す
- YWT: やったこと、わかったこと、次やることを洗い出す
- 4Y(*2): やること(予定)、やったこと(予定に対する結果と予定には無かったがやったこと)、よかったこと、よくなかったこと
- 手法は何でもよくて、重要なのは以下四点
- 1: やったことを洗い出しながら、気付きも洗い出すこと
- 2: 1 を見ながら次に何をやるべきかを考え、言語化し、選ぶこと
- 3: プロジェクト自体の決定事項やマネージャーのビジョンなど中長期的な羅針盤との整合を取ること
- 4: 無視できない動向やニュースやインシデントなど、文脈のキャッチアップを踏まえること
- その他筆者による体系も参照(*3)
議論
- Q: XP、スクラム、カンバンなどすでに確立されたアジャイルの手法を用いてもいいか?
- Ans: 正直おすすめしません
- これらの手法もガッチガチにあれこれを定めた上で皆に従わせる(手法自体に余地はあるが運用しているとほぼ必ずそうなる)という意味で、案外融通が利かないからです。融通が利かせる場合でも、有能な少人数によるあうんの呼吸で成立していることが多いと思います
- つまり ASD 部下には荷が重いものなのです
- ですので、ここではアジャイルの本質として「スプリントごとのベストエフォート」だけを抽出し、かんたんに整理し直してお伝えしています。この本質を前提として、必要に応じて各手法内の概念や方法を取り入れていくのが良いと思います
- 🐰ちなみに アジャイルの手法はソフトウェア開発者向けの専門的な方法論や哲学 であり、他の分野の者がおいそれと取り入れられるほど甘くはないと思います
参考
- 1 厳密に言えばアジャイルには複数の手法があり、スプリントベースの手法としてはスクラムがある。しかし他の手法であっても、計測と見積もりのために、スプリントのような単位(サイクルと呼ばれることが多い)は使用する。大胆に言えば、アジャイルの本質は Performance Per Period であり、Period(指定期間という単位)というシンプルな単位で仕事のやりとりを行えるようにすることである。そのためには計画に無理やり食らいつくことよりも、現状のベストエフォートを計測し、その持続と安定を図らねばならない。アジャイルとは、ギャランティからベストエフォートへのパラダイム・シフトなのである
- 2 筆者の提唱です
- 3 振り返り|タスク管理を噛み砕く