パターン:換気役パターン
サマリー
- ASD 部下は、組織やチームの閉鎖性緩和・腐敗防止・多様性促進に貢献する「換気」の役割に適している
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背景とアプローチ
- 基本的に組織(チームなど小さい単位でもありうる)は閉鎖的であり、多様性がなく、腐敗が進行する
- 単一の「ノリ」が生じて、これに乗れるものと乗れないものとが生じる
- 乗るために政治が必要となり、本質的な仕事やワークライフバランスから遠ざかった、政治に疲弊する組織と化していく。閉鎖的でもあるので外からの影響もなければ、自浄作用もなく、通常は中長期的に膠着が続く
- あまり自然な現象である。そのため:
- 優秀な人材が定着しなかったり、既存の人材も大半が事なかれ主義や静かな退職に陥ったりする。つまり組織の大半は、構造的に鈍っている
- マネージャーや経営陣も理解はしているが、テコ入れするだけの意思や能力がなく、また当事者でもなく、ゆえにリスクを犯してまで取り組むインセンティブがないため放置しがちである(a)
- 無論、ASD 部下に政治が務まるはずがない(b)
- これを強引にたとえると、換気していないせいで汚くなっている
- 👉️換気すればいい
- 👉️その役割を ASD 部下に担ってもらえばよい(aとbのマッチング、おおよそ役に立たないであろう b に、a に変わって打破してもらう)
アプローチ詳細
- 換気とは:
- 脱文脈的な視点を持ち込むこと
- 文脈的:
- 私たちは通常、所属組織の文化、慣例、セオリー、メンタルモデルまた周辺人物の動向にとらわれており、これに從った行動をする。良くも悪くも環境に反応する自動機械(オートマトン)であり、概念的には刺激に反応するだけの虫と大差ない
- この性質をこのドキュメントではアロセントリック(環境中心)と読んだ
- ここでは 文脈的 と名付ける。文脈に従う虫のようなものなのである
- 脱文脈的:
- 一方、ASD はエゴセントリック(自己中心)的であることが多く、組織にいながら文脈にとらわれない思考や行動ができる
- 支離滅裂だと意味ないが、現状の文脈を踏まえた上で、そこから少し離れたり、そこを少し変えたりといった言語化ができる。そもそも現状の文脈の言語化自体も特殊能力である
- このように狙って文脈から逸れることを 脱文脈 と名付ける
- 換気とは、文脈で充満した臭い部屋の窓を空けて文脈を逃がし、新しい何かと入れ替えるようなものである
- 換気役とは:
- 換気を行う役割のことで、れっきとしたポジションの一つ
- 換気役は時間の 100% をこれに使うか、少なくとも 50% 以上を使っている(マルチタスクが得意ならそれ以下でも良いが、よほど優れた ASD 部下でもなければ難しいでしょう)
- 🐰たとえば採用情報ページから「募集ポジション:換気役(Context Articulator)」と書いてもいいくらいのニュアンスです
換気とは
- 換気とは、以下の言語化を提供すること
- 1: 部屋(現状のこと。特に言語化の対象となる「きりのいい範囲」)
- 2: 窓(部屋として定めた現状の中で、変えた方がいい部分)
- 3: 鍵(窓を開ける=変えた方がいい部分を実際に変えるためのやり方、考え方、その他情報)
- 換気の目的
- 「考える契機にしてもらうこと」と「悟ってもらうこと」
- 🐰いわゆる「企画」や「コンサル」や「コーチング」などではありません。あえて言えば、カジュアルな問題提起 です
- 重視すべきは言語化であり、したがって内容は換気役当人の主観に基づくことが多い
- 以下は重視しない(使ってもよい)
- ビジネスではお馴染みの数字
- アカデミックではお馴染みのエビデンス
- ビジュアル
- ストーリー
- キャッチコピーその他芸術的なフレーズ、またそれらの引用
- 換気役の過ごし方
- 整備、依頼、作業から成る
- 1: 整備。換気を行うための日頃の調査、読解、思考、検討や試行。
- 2: 依頼。換気依頼を受けて、どうやって応えるかを先方と詰める
- 3: 作業。換気を行う。部屋、窓、鍵を言語化した上で提出する
- 細かいスタイルに正解はない、たとえば
- 整備としてひとりで読み漁ったり考えたりつくったりする人もいれば、色んな人と会って話して集めていく人もいる(ASD であるなら前者が多い気はするが)
- 依頼の受け方も様々で、テキストコミュニケーション完結もあれば、打ち合わせベースで詰めていくことも可能
- 作業としてどこまでやるかも様々。鍵を丁寧に言語化するケースもあれば、ヒントを並べる程度で済ませることもあるし、鍵を言語化しない(その分部屋と窓を重視する)こともある
換気役の責務
- ナレッジを育てる
- 換気を行うためのナレッジを育てる=ウィキやノートやドキュメントなど、関係者全員誰でも自由に見れる形で常に公開する
- 位置付けとしては「換気役自身が日頃から書き溜めるメモ」であり、それを誰でも見れるようにもしたもの
- 本格的になると、すべての作業メモや議事録を残す場合もある
- 換気依頼に対処する
- 「換気役」そのものをスケールさせる
- この組織における「換気」のフォーマットやプロセスを確立する
- 換気役を増やすための「換気」理論の体系化やドキュメント化を進める
- 🐰名前をつけた方がいいでしょう。たとえば私なら「文脈換気(Context Articulation)」と名付けます
- 換気役の社内外への啓蒙を行う
責務は JD(ジョブ・ディスクリプション)のように定めるといい。といっても、KPI レベルで厳密に決めることは不可能か、決めたとしても解が変わるため意味がない。定性的な期待 の定義に注力すればいい。
換気作業のスコープや粒度も様々であり、解はない。チームメンバーとして入ってもらってチーム内で使い倒す(As A Member)こともできるし、部門レベル・事業部レベル・全社レベルなどで広く公開して誰でも使えるようにしてもいい(As A Resource)。あるいは換気の仕事を依頼するのではなく、好きに活動してもらうというインフルエンサー的な貢献の仕方でも良い(インターナル・アウトサイダーパターン)。これらを全部バランス良く両立することもできる。
しかし、最も重要なのは、換気役を務める ASD 部下自身の働き方と過ごし方である。合わないものを押し付けてしまっては本末転倒だし、ASD ゆえに「仕事だから我慢して」「自分が合わせる」のも難しい。そもそもそれができないから、こうして別の貢献の仕方を論じているわけである。そういう意味で、パーソナル・ワーキングアグリーメントの作成は有効である。