パターン:ニーズ・シーズ・ブリーズ
サマリー
- 仕事をニーズ(必要性)、シーズ(実現性)、ブリーズ(持続性)の観点でとらえ、ASD 部下にはシーズを任せるのが無難
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背景とアプローチ
- すでに述べたとおり、仕事は探索・作業・反応に大別できる
- ニーズとシーズはすでに知られているだろうが、改めて整理し直すと、探索の仕事は 以下三観点に分解できる
- ニーズ。必要性。必要とされているものに取り組む(というより不要なものを創出しても意味がない)。顧客や関係者が言っていることが正しいとは限らない
- シーズ。実現性。概念や方法や道具として存在していること。なければつくること。手札や部品の拡充
- ブリーズ。持続性。≒採算性。いくらシーズが揃って、ニーズを満たせたとしても持続できねば意味がない。また持続性は最初から設計した方がいい
- 🐰造語です。Breath(呼吸)から来ており、呼吸を続けること=持続性というニュアンスを込めています
- ASD 部下に探索の仕事を振ったとして、ニーズ・シーズ・ブリーズ全部こなせるとは限らない
アプローチ詳細
- 探索の仕事のうち、ASD に向いてない部分を明らかにするために、ニーズ・シーズ・ブリーズでとらえている
- ニーズの仕事。ニーズを調べるためのあらゆる活動。人を尋ねてコミュニケーションする営みが生じる。具体的な人、チーム、コミュニティ、クラスターなど「具体的な何か」を対象にする
- シーズの仕事。概念、方法、道具を集める活動。集めたそれらをわかりやすく伝えたり、自由に使えるようにしたりといった整備も含む。
- ブリーズの仕事。ビジネスモデルの構築、運用と、自社のリソース管理の仕方を適切に当てはめて持続的に運用できることを示したり実際に調整したりする活動。
- いくつか例を挙げる:
- いわゆる企画は、ニーズとブリーズを重視する。シーズは軽めか不要(作文や体裁は必要)であることが多い
- いわゆる研究開発は、シーズをつくっている。運用が下手な組織はニーズやブリーズも混ぜてしまい、研究に集中できない
- 🐰大半の仕事はシーズを軽視する。「前進できれば何でも良い」からであり、問題が起きてもその都度力技で突貫すればいいだけだからである。つまり手段を選ばない。現代の経営者も基本的にこのメンタルモデルを持っており、したがって優秀な者≒手段を選ばず突貫できる者となっている
- ニーズの部分は ASD にはおそらく向いていない ので、できるだけ免除した方がいい
- 🐰まずはアサインしてみてもいいですが、そもそもニーズを知りにいける・理解できる程度の素養がある部下であれば、日頃のマネジメントにも苦労してないと思います。向いてなさそうなら、試すことさえもやめて、その分をシーズやブリーズに充てた方が有益です
- 🐰ただし ASD 部下側がニーズの仕事を切望している場合は、やらせてみてもいいでしょう。明らかに向いてない場合は、その旨をフィードバックして納得させてください
- 最も向いている可能性が高いのは、おそらくシーズである
- なぜならシーズの仕事では、ASD 部下が苦手とする人間や組織の暗黙的な文脈や機微を考慮する必要がないため
- 純粋に概念や方法や道具を調べたり、つくったり、わかりやすく伝えたりすればいいだけであり、ASD 部下はむしろ(上記を考慮する能力を持たない分)専念しやすい可能性が高い
- シーズの仕事の例:
- 働き方・過ごし方・やり方(リモートワーク、フレックス、非同期コミュニケーション、テキストコミュニケーション。またこのドキュメントで紹介するパターンたち)
- 組織にとって未知の技術や概念(タスク管理、生成AI、ニューロ・ダイバーシティ、エンゲージメント)
- 現状の言語化
🐰木こりのジレンマ
シーズの仕事について補足します。シーズの仕事は、木こりのジレンマを突破するのに使えます。
木こりのジレンマとは、今使ってるボロい斧を研いだり交換したりすればいいのに「木を切るのに忙しいんだ!」と言ってそうしないさまを指す言葉です。つまり単に仕事に費やすのではなく、その道具や手段や考え方を何とかする視点にも立ちましょうという教訓です。
定型発達はアロセントリック的ゆえに、このような視点に立つのが難しいです。特に日本は文化的に現行踏襲しがち、かつ平等や公平の名のもとに単一的な規範を指向しがちですし、そもそも資本主義(特に大きな組織の運営)自体が多数の駒をいかに安くこき使って搾取するかゲームでもあるのでなおさらディストピアになりがちです。つまり環境そのものが「斧で木を切るべき」に染まっており、アロセントリックなのでそれに從ってしまいます。
逆に ASD はエゴセントリック的なので、斧自体を何とかするとか、斧で木を切る人間のやり方を変えるといった目線に立ちやすいです。
このように向き不向きがあります。ですので、ASD 部下には斧自体の話に詳しくなってもらい、その結果を解説してもらえばいいのです。結果を受けてどうするかは、マネージャーであるあなたが決めればいい。少なくともアロセントリック的で木を切ることしか能のない状態よりはマシです。ヒントに溢れています。無論、結果のクオリティもピンキリですが、そこは仕事と同様、経験と議論で成長します。
最大のハードルは、ASD 部下がつくったシーズを評価する時間と能力がマネージャー側にない ことですが、これもマネージャー側が成長すれば済むことです。ASD 部下にシーズの仕事を与える、つまりシーズの仕事にリソースを費やすことで、実際にお金その他リソースがかかっていることになりますので腹をくくれます。
経験的に、マネージャー以上の人の大半は思っている以上に視野狭窄的で、今いる会社という環境に染まりきっており融通が利きません(だからこそ会社で最適な立ち回りができるのですが)。ASD 部下に遭遇したとしても、自分で ASD について調べて、事例も拾って、自分なりに考えれば対処や戦略は思いつくでしょう。1日30分、2週間もかければできるでしょう。その程度もしないのです。できないのではなく、しない。染まりすぎているせいで、やるという発想を持てない。別に批判しているわけではなく、アロセントリック的なのでそういうものです。
というわけで、シーズの追求と、それを ASD 部下に任せているということにはそれなりに価値があるのではないでしょうか。