紛らわしいですが、DigitalではなくDocumentationです。ドキュメントベースの仕事の仕方に、抜本的にシフトすることを
ドキュメンテーション・トランスフォーメーション Documentation Transformation
と呼びます。
自社の働き方や文化や各種プロセスに関するハンドブックを公開している会社です。先月、日本語の解説本が出ました。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B0DJV337M1/
ハンドブックを「信頼できる唯一の情報源」として扱うことを徹底しており、全社員が例外無く憲法や法律として使うものです。
Everythins is in draft(すべては下書きである)の原則もあるため、絶えず変更も行われます。しかし無秩序ではいけませんから、ページごとにメンテナを立てて承認制にしたり、SAFEフレームワークと呼ばれる「非公開にするべきかどうか」の判断指針があったりもします。
GitLab は「ハンドブックを作成することは売上やチャーンレートと同じくらい重要である」と述べており、かなりの力の入れようです。
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FAQシステムを売っている会社です。
この製品を支えるのが Cosense という Wiki です。当サイトでも何度か紹介していますが、複数人同時編集に強く、ページ間をリンクで繋いで知のネットワークをつくれる点が秀逸な Wiki です。
同社も内部向けの Wiki を一つつくっていて、ページ数は 2025/11 で 10 万超え。いわば内部向けのドキュメントとして機能しています。
情報や議論は基本的に Cosense で行い、Slack は指示やお願いの用途で使っているそう。これは前述の GitLab でも見られた特徴であり、従来私たちが重用しているビジネスチャットは「通知機能を持つサブのコミュニーション手段」でしかありません。
DXだと被ってしまうので、DocXと略すことにします。
さて、DocXには見られるであろう特徴を5つに整理します。DocX を成したければ、これら特徴を満たすように動いていけば良いでしょう。
以下は前述のGitLab本から引用したものです。
集約と同期のマトリックス(名前は当サイトによる)。
DocX では右上を目指します。つまり、非同期的に使えるもので、かつ集約――唯一の情報源として機能させることの両方を目指します。
信頼できる唯一の情報源(Single Source of Truth、SSoTと略す)とは「ここさえ見ておけば良い」を保証した情報源を指します。
あちこちウェブサイトやストレージを探したり、人に聞いたりする必要がなく、唯一ここだけ見れば絶対見つかることを保証します。あるいは、SSoT を探してもないとしたら新しく追加させますし、単にわかりづらくても上手く整理してわかりやすくします。
全従業員が頼る依代となるものですから、メンテナンスにはかなりのコストをかけます。単一のファイルで実現するのは厳しいため、ウェブサイトかWebサービスになるはずです。
ちなみに、もともとはソフトウェア開発の用語でした。ソフトウェアにはデータベースなどデータの保存がつきものですが、その保存場所が複数箇所に分散すると設計上混乱しがちなので、ただ一つの保存先をつくってそこだけ使おうぜ、とするわけです。
ドッグフーディングとは、自分たちでつくったものを自分たちで使うことを指します。特にビジネスの分野では、自分達が恒常的に使っているものを売ることを指します。
DocXでは、全従業員が使う(読んで従う)ドキュメントを自分達でつくります。もちろん一度つくって終わりではないので、恒久的にメンテナンスや更新は続きます。
ドッグフーディングというと、SaaS などのプロダクトが対象となりがちですが、ドキュメントでも可能なのです。
DXが進まない理由は人材不足じゃなくて、経営層が無能なだけが、トランスフォーメーション(変革)には経営層による投資が必要不可欠です。
ボトムアップで現場から少しずつ広げよう、などは言い訳にすぎません。そんなものは変革とは呼べません。変革とは荒療治であり、荒療治できるだけのリソースを最初から揃えて、一気にスタートさせるものです。
少しずつ、というのは、そのようにスタートラインに立った後、実際に社内を変革しきるまでの時間がそれなりにかかるよねという話であって、スタートラインに立てる程度の投資を怠る言い訳ではないのです。
DocXの場合、おそらく以下が必要でしょう。
DocX ではオープンかつフラットであり、ドキュメントは従業員全員誰でも読み書きできます。一部のプライバシーや企業秘密を除いて情報格差はありません。仮にドキュメントに書かれていなかったとしても、誰かが(たとえば知っている人に聞いた上で)書くことができます。書くことを邪魔したり軽視することは許されません。
ただし、これだけでは編集時に無秩序ですから、意思決定者も必要です。ここで意思決定者とは、最終的に「こうするぞ」と決める権限を持つ人のことです。
GitLab 社ではページごとにメンテナを設けていて、この人から承認をもらわないと更新できないようになっています。また誰かが公開した情報が法的にまずそうな場合、法務部は問答無用で非公開に戻せます(戻していい権限を持っています)。メンテナや法務部が意思決定者ですね。
Helpfeel 社ではメンテナは存在せず、誰でも承認無しに編集できるようになっています(そもそも Cosense に承認機能がない)。しかし履歴は残りますし、必要なら意思決定者が介入することもできるでしょう。具体的な意思決定者は不明ですが、おそらくCxOやその他主担当が意思決定を下せる(書き込める)風土になっていると思います。
話題Aに関する情報はページAに書く、との考え方とコミュニケーションや情報共有の指向性を4つに分類すると呼んでいます。トピックとは話題の意です。
DocX ではトピック指向を徹底します。どこに何が書いてあるかをしっかりと定めることで、迷いなくアクセスできるようにします。チャットのように「色んな話題が時系列でこの辺に散らかっている」なんてことはありませんし、もしそうだとしたら整理してトピック指向にするべきです。
細かい整理のやり方は組織次第でしょう。
GitLab 社では、MECEを放棄しつつも伝統的に階層で整理しているようです。
Helpfeel社では、Cosenseがそもそもネットワークをつくるツールであり階層とも無縁なこともあって、整理をしません。かわりにページ間をリンクで繋いで地図をつくり、あとで曖昧な記憶でも辿りやすくします。もちろん、必要なら階層的な目次のようなリンク集をつくっても良いでしょう。
いずれにせよ、トピック指向では1-ページ 1-トピックとなり、各トピックはURLを持っていて個別にアクセスできます。もちろんリンクをすればページ間で繋がりができます。いわばトピックをビルディングブロックとみなして、必要に応じて自由に繋いだり剥いだりできます。
DocXはティール組織を支える概念としても使えます。ティール組織では全従業員が依り代にするプロトコルをつくりますが、これをドキュメントで担うことができます。