workhack2.0

通常は工程ごとに役割を決めて、別々の人を割り当てますが、それら全部をひとりでやってしまうあり方があります。

フルスタック・スタッフ

フルスタック・スタッフとは、すべての工程を一人で行う者、あるいは必要に応じて行える者を指します。

従来は工程ごとに役割を設定して、1人1役あるいは1人n役で分業していました。あるいは、せいぜい以下のような特殊なポジションでした。

メリット

フルスタック・スタッフの適用

フルスタック・スタッフの適用場面(適用対象)は、以下マトリックスで整理できます。

適用場面のマトリックス。

### 軸について

流れ作業とは、設計 → 開発 → テスト → リリースのように、工程を一つずつ進めていく製造業的なやり方を指します。ソフトウェア開発ではウォーターフォールと呼ばれます。

協調的とは、短い期間中に設計からリリースまで全部行うやり方を指します。ビジネスとしての「アジャイル」の本質と呼ばれます。

エンドフルネスについては、プロジェクトのように期間的な終わりがあるものをエンドフルといいます。逆に、サービス業など営業時間はありますが、基本的に未来永劫続くものをエンドレスといいます。

適用する

1 ウォーターフォールは、エンドフルで流れ作業的なあり方です。フルスタック・スタッフを適用するとは、流れ作業全部を一人で行うことを意味します。

通常、あえてここに留まる意味はありません。一人で行えるなら、2のアジャイルでやった方が早いし、こまめに成果を出せるので上手くいくからです。

2 アジャイルは、エンドフルで協調的なあり方です。フルスタック・スタッフを適用すると、短い期間ごとに成果物を出す、というサイクルを一人で回すことになります。

アジャイルでは1~2週間で切ることが多いです。ので、1~2週間ごとに成果を出す、となりますね。

複数人で仕事する場合、これは主にコミュニケーションコストの観点から非現実的です。本来のアジャイル開発手法であればカバーできますが、やり方も要求水準もシビアです。フルスタック・スタッフであれば、自分一人だけですので、かなり現実的に行えます。

※もちろん一人で全部やりきれる実力は必要

3 スタティックサービスは、エンドレスで流れ作業的なあり方を指します。

サービス業は基本的にこれのはずです。たとえばフロントで接客する人は、接客しかできません。流れ作業的に連携を整備するために「プロセス」や「マニュアル」が敷かれているので、あまり融通が利きません。イレギュラーにも弱いです。

ここにフルスタック・スタッフを適用するとは、現場判断で融通を利かせられるようにすることを意味します。

たとえば、プロセスよりガイドラインに留めて共通部分だけインストールしておきます。ガイドラインに違反しない程度に、各自は自由に動けます。

実状況で言えば、調理が忙しそうだからフロントスタッフが調理場に入ったり、逆にフロントが忙しくて「誰か手伝ってくれ」というときに、調理スタッフやマネージャーがフロントに入ったりします。

4 ダイナミックサービスは、エンドレスで協調的なあり方を指します。

このあり方は、フルスタック・スタッフを適用しないと成立しません。

先進的で事例も少なく、イメージしづらいと思いますが、ティール組織が当てはまります。いわばフルスタック・スタッフから成る小集団です。

旅館がわかりやすいかもしれません。小さな旅館ですと、スタッフはおそらく10人もおらず、全員がフルスタック的で、状況に応じて何でもすると思います。接客もするし、調理もするし、掃除もすれば、ウェブサイトやSNSも運営するし、集客やビジネスネタの検討や議論もする。

全員がフルスタック的なので、状況に応じて「誰かがやればいい」「みんなでやろうか」で済むのです。協調的なので、変なプロセスやルールもなく、すぐに行動できます。

※旅館だからティール的とは限りません。接客や掃除をしないオーナー、接客しないバイト、など役割を固定することはよくあります。これは 3 のスタティックサービスです。

フルスタック・スタッフを上手くやるには

ここからはフルスタック・スタッフのあり方を上手く機能させるための原則を取り上げていきます。

共通の価値観をインストールする、見えてなければ議論する

組織全体としてのビジョンやコンセプトが統一されていないと、スタッフによって品質や方向性がバラバラとなり、顧客が混乱します。選ばれなくなります。

特に著しく異なる二人がいた場合に、どちらかがクレームの対象になります。

たとえば非同期リテラシーは両立しません。

1.0的に丁寧に尽くすスタッフと、2.0的に必要最小限しか動かない、何なら言われたときしか動かないスタッフが両方いたとすると、片方はクレームの対象になるでしょう。2.0的なスタッフを「やる気ないのか」と評するかもしれないし、1.0的なスタッフを「くどい、うざい」と評するかもしれません。

ですので、組織として「うちは1.0的にやります」などと決めねばならないのです。あるいは、今決まってなくても、少しずつ固めていかねばならないのです。

ここで、「そういうものは仕事を通じて少しずつ醸成されていくものだろ」と言語化や議論を怠ける人がいますが、怠けてはいけません。

言語化と議論を避けていては、出来上がるのに10年かかる、だなんてことになりかねません。いたずらに安易に定めるのも本末転倒ですが、だからといって怠けるものでもなく、言語化と議論は日頃からしましょう。

また、経営者やマネージャーなど偉い人の思いが正しいとも限りません。現場の方が見えていることもよくあります。

ですので、やはり言語化と議論を継続的に行って、本質を見つけていくのが一番です。

OJTを廃する

教育としてよくOJTが挙がりますが、OJTは正直言ってただの思考停止です――と書くと語弊を招くので、補足します。

もちろん実経験でしか得られないものもありますが、それは実経験で最低限通用するだけの基礎を身につけてからの話です。基礎の部分を、OJTという形で丸投げしていけません。

基礎をつくる部分には、ちゃんと投資してください。

ちなみに、恒常的にちゃんと時間を取れるなら、ドキュメントは軽くて済むか不要です。

この部分は、思っているよりもわかってない人が多いので、もう少し協調します。

OJT的な現場至上主義は、昭和時代の遺物です。精神論的にオーバーワークさせるスポーツ監督と同レベルだと思います。そうではなく、基礎の部分については、ちゃんと賢く教育してください。

現代の若者は、この本質がわかっています。無闇にOJTでスパルタされるよりも、ちゃんと理に適った教育により基礎を身につけさせてもらうことを期待しています。ですので、これを満たせない職場には若者が定着しません。あるいは静かな退職をされます

そういう意味で、若者の定着度合いが実はバロメーターになっています。定着しない職場は、このOJTの呪いがおそらくあると思いますので、見直してください。

フルスタック・スタッフが欲しいならなおさらです。

従業員間の連携を強化する

フルスタック・スタッフと言えど、常にひとりですべてをまかなうのは難しいです。かといって、フルスタックだと指揮命令系統が階層的ではなくフラットになるはずです。

ここで重要になるのが、必要に応じてラフに仲間に頼れることです。それができるだけの関係性づくりとツールへの投資は怠らないでください。

だからといって、無闇に会議や会話を増やせば良いというものでもありません。

ここで重要になってくるのが仕事術です。要はやり方や考え方を知らないと、融通が利きません。

当サイトでも様々なものを紹介しているので、ぜひ読み漁ってみてください。

ここでもかんたんに取り上げます。

会議による拘束はボトルネックになるので、まずはこれを緩めねばなりません。脱拘束と呼んでいます。

コミュニケーションパラダイム「脱拘束」

皆が集まって喋る機会は必要ですが、これは(会議や仕事をだらだらしながらではなく)意識的に確保していきます。

コミュニケーションの注入(CI, Communication Injection)

非同期的なコミュニケーションや情報共有も大事です。これがないと、結局、原始的に会議することしかできないからです。そのためにはツールが必要で、QWICという形で解説しました。

対面口頭以外の情報共有とコミュニケーションは「QWIC」

また、当サイトでは記事化していませんが、ティール組織も参考になります。

軽く解説すると、ティール組織では「小集団」というフルスタック・スタッフの集団から成る組織です。

各集団内は非常に密で、従来の組織よりもコミュニケーションは抜群に多いです。かつ、相当の裁量が与えられていて(たとえば採用の権限さえ持つ)、ほぼ独立した小さな会社のようなものですから、無駄も少なくて時間があります。その分もコミュニケーションに充てられるのです。

https://www.amazon.co.jp/dp/B078YJV9ZW

頼れるものは頼ってもいい

フルスタック・スタッフは全工程の全作業を一人でやる、は意味しません。

外注ができたり、他の専門的なメンバーに頼れるのなら任せてもいいのです。フルスタックとはいえ、自分一人では限度がありますから、頼れるところは頼りましょう。

一方で、頼れる先が常に使えるとは限らないので、安易に頼ると品質が安定しません。Aさんに任せた場合、Bさんに任せた場合、Cさんに任せた場合は、当然ながら全部仕上がりが違います。

もしスタッフ側で行うのが困難な作業があるのだとしたら、それは組織的に体制を整えた方がいいでしょう。これは作業を行う体制(ワーカー体制)と、どこにどのように任せるかという体制(リクエスト体制)の両方を含みます。

とはいえ、可能なら自分がやることを意識したいです。

結局、自分の思い通りにやるには、自分でやるのが一番だからです。DXの本質は敏捷性と変化耐性の獲得です。

コミュニケーションコストはバカになりませんし、かけたところで通じるものでもありません。フルスタックの潮流も、まさにその問題から出てきたはずです。

もう一つ、メリットで挙げた要素を確保するには、非効率になるかもしれないが経験する(させる)ことも重要です。

ホテル業務の例でたとえると、仮に調理体制を整備して、それに任せれば上手くいくのだとしても、スタッフには調理業務をしてもらいます。そうして実際に経験することでしか、調理の世界(ドメインといいます)を知れないからです。

ドメインを知れたら、応用が利きます。体制側で上手くいかない小回りも利くかもしれないし、新しい調理のあり方も開拓できるかもしれません。体制側に頼れないときのリカバリーもできると思います。

可能であれば、フルスタック・スタッフでも回せる程度にシンプルな体制やシステムにしたいところです。もし専用の調理スタッフでないと成立しない場合、それは単に調理業務が無駄に複雑になっている可能性があります。

フルスタック・スタッフの隠れたメリットは、専門的でないスタッフが流動的に担当するがゆえに、「そういう状態でも成立できるような業務のあり方にせざるをえない」との力学を働かせられることです。大げさに言えば、継続的な業務改善がしやすいのです。

「経験があった」にはしない・させない

たとえば最初1年間を実店舗で修行させて、その後はずっと本社で企画や管理に従事させるとします。これはフルスタック・スタッフでしょうか。

違いますよね。それでは意味がありません。

皆さんも「私も以前は現場にいたからさぁ」などという人が無能で足を引っ張る、との経験があると思います。

継続的に経験しないとアップデートはされません。上記の場合、最初の1年間と言わず、いつも、いつでも実店舗業務をしてもらうべきです。

より柔軟にしたい場合は、インセンティブを与えます。

たとえば管理面や企画面で優れた成果を出せた場合は実店舗業務を免除する(成果を出せているので不要と判断できる)、などです。もちろん、出せなくなったら「鈍ってるんだよ、今の現場を見てこい」となります。